再生医療とリハビリテーション医学
田代 祥一 先生
慶應義塾大学医学部 リハビリテーション医学教室 講師
田代 祥一 先生
慶應義塾大学医学部 リハビリテーション医学教室 講師
私の所属するラボは、iPS細胞由来神経幹細胞移植の脊髄損傷(脊損)への応用を目指していますが、私自身ははじめ再生医療とは直接関係ない「脊損後遺症に対する『運動療法』の効果」について研究していました。脊損で苦しむ患者さんのほとんどは慢性期患者であるのに、慢性期になると一般に細胞移植は効果を発揮しなくなります。一方で、「運動療法」の効果の一つに、神経栄養因子の発現を増進させ、あたかも薬物治療のように機能回復を進める作用が知られています。こうした背景から、「運動療法」が特に慢性期であっても神経幹細胞を用いた細胞移植の効果を増進しうるのではないかと思ったことが最初です。実際この内容は論文として上梓しています。
神経再生医療にとってリハビリテーション医学は必要不可欠なものです。幹細胞移植にせよ、設計されたグラフトにせよ、移植された細胞が産生する神経栄養因子が誘導した新生軸索にせよ、それらが生体内でシステムとして有機的に作動するためには、「機能訓練」というプロセスが欠かせません。再生治療後にランダムに再生してくる新生軸索ですが、そのnaiveな状態では合目的な動作を上手に効率よく遂行することはできないわけです。「機能訓練」を行うことではじめて、適切な標的に繋がる線維が選択的に強化されてきて、神経系全体としてその動作に習熟してくることになります。それに加えて「運動療法」がおそらく神経栄養因子の発現増加を介して、移植された細胞の生着や増殖、さらに神経系への分化を後押しすることも明らかになっています。両方とも細胞治療の効果を高める重要な機序であり、リハビリテーション医学は再生医療を織りなす大切な要素の一つなのです。
我々リハビリテーション科専門医が持っている「運動療法」や「機能訓練」という治療手段を、最も効果的に機能回復という成果につなげられる土俵ではないかと思います。
逆に、基礎の先生方が細胞をつくり出し、外科の先生方が手術という形で植え繋げ、あるいは内科の先生方が点滴治療という形で細胞を補充します。その再生医療を最終的に形にしてゆくのはリハビリテーション医学であるといっても過言ではないでしょう。
「早く再生医療を実現してください」と言うことはよく承りますが、あまりに夢のような治療法であるという期待が膨らみすぎていることには不安を持っており、また啓発の重要性を痛感しています。腫瘍化の可能性、手技自体の侵襲性、異常可塑性による後遺症の増悪の可能性などが小さく見積もられている傾向を感じます。ただし後遺症に関しては、運動療法を行うことで疼痛や痙縮が抑制されるであろうことは明らかになってきています。