専門医会学術集会
第1回リハビリテーション科専門医会学術集会のご報告
2006年11月19日(日)に東京慈恵会医科大学中央講堂において、第1回リハビリテーション科専門医会学術集会を開催しました。当日はあいにくの雨天で肌寒く、参加人数に不安がありましたが、幸い200名弱の参加があり、ほっとすると同時に来ていただいた先生のご期待に沿えるように座長・講師とも気合を入れて行いました。司会には東京慈恵会医科大学の橋本圭司先生が担当され、専門医会担当理事である土肥信之先生、代表世話人および関東地方会世話人の挨拶の後に5講演および臨時総会を行いました。以下に講演概要について報告します。
旧専門医会から新専門医会への提言
浜松市医療公社 石神重信先生
1982年に第1回専門医試験が行われ、第1期合格の米本恭三先生を初代代表世話人として専門医会を結成されたことに始まり、専門医の学会での立場の変革について述べられた。学会として専門医は作ったもののその役割や展望がはっきりせず、また当時のリハ学会幹部の多くは専門医でないために専門医の要望・意見との間にねじれが生じていたこともあって、学会外部組織として旧専門医会を作り活動してきたこと、その後理事の多くが専門医となったために、今回ようやく学会内部の組織として専門医会が発足したという経緯について話された。新専門医会への提言としては①専門医育成に関する教育が不十分であること、②専門医の臨床的な能力が不足していること、③専門医が学会をリードしていくという自覚が足りないことについて述べられた。
石神先生の提言はまさに今回の専門医会の目的と一致するところであり、今後上記の提言に対していかにこれを発展させていけるかを専門医全体で考えていきたい。
専門医会に望むこと
慶應大リハ医学教室 里宇明元先生
専門医としてどのような活動をすべきであるか、その上で専門医会はどのような役割を果たすべきであるかについて述べられた。第1は質の高いリハ医療の提供を行うことで、ピアレビューによる質の確保、急性期から地域生活までのリハ医療のネットワーク化、診療ガイドラインの策定によるリハ医療の標準化を通じて貢献していく必要性について述べられた。第2はリハ医学の進歩への牽引を行うことで、運動障害・認知障害の軽減・克服のために、多施設共同研究の基盤整備などにより質の高い基礎研究、臨床研究を推進し、成果を発信する責任について述べられた。第3は教育・啓蒙活動に関する活動の必要性で、専門医育成については特定の疾患・障害に対するリハ技術を高めるためにその技術を得意とする施設で研修できるプログラムユニットの必要性について述べられた。第4はリハ医学を志す者を増やすための活動について述べられた。また専門医会の活動は全国の大学・施設間の協力体制のもとに行えること、専門医は質の高い機動性のある集団であることを強調されていた。
専門医会として上記の全てを行う必要性は理解できたが、全てを同時に始めることは実際には困難であるのでガイドライン策定への協力や多施設間研究から手をつけていくのがよいのではと考えている。
rTMSと脳血流変化
帝京大リハ科 羽田康司先生
経頭蓋磁気刺激(TMS)に対する脳血流変化の評価として近赤外分光法(NIRS)を用いた方法について述べられた。先生のグループが市販の磁気刺激コイルとNIRSプローブを組み合わせた装置を用いて評価した結果についてPET、SPECT、fMRIでの研究と比較しながら考察され、空間分解能と時間分解能の違いで結果が異なる可能性について述べられた。NIRSの装置が非常に高価であることから装置を常に使用できない困難さについて話されたが、そのような状況でも何とか工夫すれば良い研究ができる実例と思われた。
FIMの効能と限界
杏林大リハ科 山田深先生
リハの世界では今や誰もが用いているFIMに関して、その有用性と使用に関する問題点を中心に述べられた。統計学的分析にはFIMは順序尺度であるので、原則として平均値を用いることが適当でないこと、運動と認知の項目はまとめない方がよいこと、Rasch変換を行うことの有用性などについてわかりやすく述べられた。また回復期ではかなり確立されているが、今後急性期あるいは維持期においてどのように利用していくかが課題であると述べられた。FIMの有用性と問題点について再認識させられた講演であった。
食道入口部通過における生理学的左右差の臨床的意義
都立墨東病院リハ科 瀬田拓先生
嚥下造影検査(VF)正面像における健常者の左右差について以前の教科書的報告に疑問をもち研究を行ったという講演であった。結果として男性の中高齢者に左右差を認める症例が多い(左が多い)ということで、今回はこの事実に留まらず、この臨床的意義についても考察されていた。最後に専門医会に対する建設的意見についても述べられ、今後専門医会の中で積極的に活動していただきたい若手の先生という印象をもった。
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尚、来年は代表世話人が北海道大学 生駒一憲先生となり、その次は九州地区として産業医科大学 佐伯覚先生と鹿児島大学 池田聡先生となりました。来年以降は2日間開催を予定しており、内容をさらに充実させるとともに、専門医間の交流をより深めるものにしていきたいと考えています。また平成19年度からは専門医資格更新に対して専門医会学術集会参加が必須となります。来年はさらに多くの先生方に参加していただければと思います。
今回参加された先生方、担当理事の土肥先生、講師の先生方、運営をお手伝い頂いた東京慈恵会医科大学、昭和大学、横浜市立大学リハ科関連の先生方に専門医会幹事を代表して深謝いたします。
(文責:菊地尚久)
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代表世話人:菊地尚久・安保雅博
関東地方会世話人:羽田康司・笠井史人