リハニュース No.13
2002年4月15日
2002年4月15日
理事長 千野 直一,常任理事 石神 重信 司会 水落 和也(広報委員会)
左より石神氏,水落氏,千野氏
水落:今日は日本リハ医学会理事長の千野直一先生と常任理事の石神重信先生においでいただき,「日本リハ医学会の現状と課題」と題して,今年の活動方針と展望についてお話していただきます. リハ医学会の活動は,大きく分けると教育,臨床,研究とあるわけですが,まずその前に,もっとも身近な話題として,4月からの診療報酬改定の話が報道されておりますので,この点について新しい情報等がありましたら教えてください.
1.医療改革とリハ
千野:医療行政等は,全般的には不透明なことが多いけれども,高齢少子化社会により,今度の医療法の改正や診療報酬の改定では,リハの必要性がクローズアップされています.高齢者医療は,介護保険制度との兼ね合いを,厚生労働省でも念頭に置いて策定しているようです.リハ医学,医療の科学性が,今までより以上に求められ,リハ医学会会員の先生方におかれましては,2002(平成14)年度はこの点でさらに頑張っていただきたいと存じます.それからお伝えしたいニュースは,数年来,会員の先生方にお願いしてきましたリハ科学という,科研費の項目が正式に決まり,リハ医学分野での研究が広がることです.
石神:今,千野理事長が言われたとおりですが,リハ関係ではいくつかに区切って話した方がよいでしょう.念願であった言語療法の報酬が改定されて,明確な診療上の位置づけができたことが第一です.それから,理学療法と作業療法では従来と全く異なるシステムが導入されたことです.複雑と簡単であったのが,個別と集団に代わり,個別でも,1単位20分で3単位まで可能となったことが近年にない大きな変化です.現段階で内容が詳しく分かりませんが,発症からの時期などによって,細かく区分けされるようです.内容を詳しく吟味しないと分かりませんが,リハサイドにとって,厳しい方向への変化です.治療時間単位(3段階)は,当然急性期や回復期への重み付けを意図したものでしょうが,最大60分では,とても十分なリハが行えないのは自明の理で,とても適正な医療報酬の改定とはいえないでしょう.社会保険等委員会で詳細な検討が始まっていますので,ご意見をお寄せいただきたいですね.
千野:やはり急性期の医療に重きが置かれるというのは,リハ科だけではなく,他の診療科にも共通したことです.もう一つは言語聴覚士制度の成立に対してリハ医学会が全面的にバックアップし,また,診療報酬の確立に尽力してきました.それからもう一つは,回復期リハの件です.リハ医学会の関連役員が当時の厚生省のヒアリングを受けて,その必要性を述べ,前回の診療報酬で認められました.さらに機能評価を盛り込むことが,おそらく4月の改定の中には入っていくのではないかと思います.医療と介護の区分けをしなければなりません.機能評価の必要性をリハ医学会としては,数年来,厚生省あるいは厚労省に要望してきました.
2.リハ医学の卒前教育:モデル・コア・カリキュラム
水落:ありがとうございました.それではリハ医学の卒前・卒後教育に話を移します.卒前教育では,医学教育全体の大きな話題として,医学教育モデル・コア・カリキュラムというものが作成されたということで,かなり急激にというか,かなり短時間で膨大な作業をこなされて,昨年のカレント・トピックス&レクチャーでも紹介されました.これに関して,最初,リハが入っていなくて,途中からリハ医学会の努力で入ったという話も聞きますが,この経緯について教えていただけますか.
千野:これはやはり,米本監事(前理事長)のご尽力が非常に大きかったと思います.もともと,卒前教育のカリキュラムは,日本リハ医学会教育委員会で骨子をつくっておかなければならなかった.それがなかったために,コア・カリキュラムのメンバーは,リハをどうしたらいいかわからず,後手にまわってしまったのです.
石神:今だから話してもよいと思いますが,コア・プログラム原案の制作にあたっている先生方から,リハがコア・カリキュラムに入っていないがいいのかと米本先生に打診があったそうです.それからリハ医学会の対応が始まったというのが実際です.私たちも理事会,教育関係の学術部を含めて,要望をまとめてお願いしました.各科も同じような要望項目を列挙したのでしょう.あとから参入したこともありリハ独自の項目として入ったものは限られますが,「各疾患別のところでリハの知識および技術が必要だ」と主張をなさった米本先生のご努力で,コア・プログラムの中で実質的には大きな分野を占めることができました.
水落:このモデル・コア・カリキュラムが実際に導入されるまでには何年ぐらいかかるのでしょうか.
石神:既に各大学ではリハ教育の責任者に,コア・プログラムに沿った形で教育カリキュラム内容を2002年度から変更するようにといった指示がなされて,だから現実には,コア・カリキュラムへの対応が起こってきていると考えた方がよいでしょう.
千野:卒後研修は2004(平成16)年開始と一応,決まっています.卒前のカリキュラムは,各医学部,医科大学独自で手直しをしています.今はその経過措置でどこの医学部でも大変なんですよ.
石神:卒前教育では,リハ部門の整備が遅れている国立大学では,ティーチングスタッフの数も十分でなく,授業時間も少ないのですから,どんな対応をしてよいのか分からないのが実際でしょう.本来は各大学で個別の対応をする前に,リハ医学会としてコア・プログラムに対してリハ教育はこうあるべきだという基本理念なり教育内容を明示すべきだったと思うのです.
水落:私も医学部の教員ですけれど,これからの医学教育も,これによってずいぶん形が変わってくるという可能性もありますか.
石神:絶対的に,変わってくるべきだろうと思っています.このチャンスを活かすことなくして,リハ医学会の将来はないのだといったことを,教育に携わる先生方は考えるべきだと思います.
水落:他学会はいかがでしょうか.従来からある,たとえば整形外科であるとか外科であるとかは,コア・カリキュラムのプランニングなどはしているのですか.
石神:現状,先日の専門医会でお話しいただいたコア・プログラム作成の委員長をされた東京医科歯科大学の佐藤達夫先生のお話では,多学会の対応は遅れており,リハ医学会は対応が進んでいる学会の一つといわれました,お世辞でしょうが.コア・プログラムを円滑に行うためには,関連する各診療科と協調する姿勢が大切で,部分を担当するといった意識が必要と加えられていましたが,リハもこれを機会に各科の領域に浸透を図るべきかもしれません.
3.リハ医学の卒後教育の必修化
水落:なるほど.わかりました.では次に,これも非常に大きな問題ですが,卒後研修必修化.さきほど千野先生がおっしゃいましたが,これは2004(平成16)年から始まるということで,これも非常にドラスティックな変化だということが言えますけれども,これに対するリハ医学会の対応はどうなっていますか.
千野:これは2004年から始まるとされています.しかし新しい制度を開始するには当然,予算が必要です.予算は4月にならないと決まらないわけですが,各学会あるいは大学病院等でモデルカリキュラムをつくっているのは事実です.全国80の国公私立大学があるわけで,大学病院を中心に各自の,おそらく80通りのプランがあると思います.その中には必須の診療科,たとえば小児科とか救急,麻酔というようなところは,大学病院での定員を考えると,とても全員まわれないわけです.ですから,一つの例として,私どものところでは関連病院を含めたカリキュラムを今,策定しています.ですから,関連病院がたくさんあるところと少ないところとでは,これは内容が違うわけです.10病床に1人の研修医ということになると,うちは1,100床ぐらいですから110人しか受け入れられない.そうすると数からすると1学年50名の研修医ですよね.今まではだいたい年間180~190ぐらい入っていますから,今後どうするかということで,ドラスティックな変化が起こると考えています.
石神:これに関しては,リハ医学会としての取り組みは漸く検討が始まったというところでしょう.卒後2年間の必修プログラムにリハがどこまで割り込めるかどうかがはっきりしていません.選択という枠も,国立大学では難しいという意見もあります.悲観的なことばかりを言って恐縮ですが,あらゆる変化に迅速に対応すべく教育関係の組織を改めています.必須となる卒後教育に対して,千野先生が言われたように,裏付ける予算,それから教育スタッフの不足から,必ずしも画一的に2004年からすぐに機能するとは思っていない先生も多いと思います.大学院大学,教育関連病院などの大きな変革と連動してくるのでしょうか.卒後2年間の教育のあり方も含めて,大筋が決まってからの展開となるでしょう.
千野:ちょっと入れていただきたいのは,リハ医学会から旧厚生省に,必修の科目の中にリハ科を入れてほしいという要望書を出したことです.これは要望書が通って,このあいだのリハ専門医会でも日赤武蔵野短大の畑尾教授がおっしゃってくださいました.本当によかったと思います.石神先生のおっしゃったことの追加ですが,リハ専門医は卒後研修の中で,コース1に一本化されます.それはコース2というのがなくなることと裏腹に,全国で研修できる施設を充実しなければなりません.卒後研修を引き受けてくれる施設がどれくらいあるかということを,今,委員会でも検討中で,それを調査し,近々公表することになります.
水落:卒後研修についても,ある程度のモデル化を検討されているのですか.
石神:卒後教育のモデル作りは先生のおっしゃるように必要なことです.今の研修施設の質は残念ながらバラバラです.卒後教育のモデルとなるプログラムを各教育機関に配布し,それに基づいて教育するようにということは,非常にいい,大きな力になって,将来的にはね返ってくるだろうというような考え方ですね.卒後医師研修会も,実習コースを増やしていく方針に切り替えつつあります.
水落:昨年の第38回学術集会でもタイと韓国の先生がシステムについて話されていましたけれど,卒後教育に関して,システム的には日本よりきちんとしているかなあという印象もありましたからね.
石神:その通りです.韓国にしてもタイにしても,発展途上国にしても,米国の教育システムに則ってしっかりやっているところはありますよ.韓国では専門医の質は日本よりはるかに高いと思います.それは教育のシステムによるものですから.見習うべきでしょう.
水落:その点は,これから教育委員会が生涯教育指針というものを出されるということで,それを期待したいと思います.
4.リハの社会的認知
水落:それでは次に,診療面に移りたいと思います.1996(平成8)年にリハ科が標榜されてから,介護保険制度とか回復期リハ病棟とか,リハ科の社会的な認知度はかなり上がっているのかなあ,という実感があります.最近の医師向けの雑誌を見ても,リハ医の求人広告がかなり増えてきて,この点に関して両先生はどのようにお感じですか.
千野:日本ではリハ医療に関して地域差があるということです.これは学会の中でも時々,問題にしているわけですけれど,教育もまったく同じで,全国平均化してリハ医療を日本の国民が均等に受けられるような体制づくりを,学会が率先してアピールしていかなければならないだろうと思います.1996(平成8)年度の診療科として標榜できるようになったという,これがたしかに大きな,エポックメイキングと思います.
石神:リハが標榜科となってから,医療の中でリハの位置づけがどのように変わってきたかといったことに関しては,全く期待を裏切ったものといってよいでしょう.すなわち国立病院,他の公立病院でも,リハ科が正式に標榜科目に入っているところはほとんどないじゃないですか.そうすると結局,厚労省も,標榜科として認めながら,肝心の病院にリハ科がないというのは片寄っていると思わざるを得ません.国立大学病院で,それでは標榜科として認められているのはどのぐらいあるのか知っていますか.ほとんどないのですよ.そして,国立大学では,厚生労働省か文部省に責任があるか分かりませんが,リハは中央診療部(リハビリテーション部)として位置づけた段階でストップしている.これでは,標榜科制度は進歩していないばかりか,退行しているといってもよいでしょう.
リハ学会の2002年度の大きな目標の一つにリハ科の標榜を採り上げています.国立病院に,大学病院に,地域の第一線の病院にリハ科を作ることが障害者のために最も必要なことです.私たちは,現状で我慢しているのではいけない.もっと強く組織内で戦い,外へ働きかけなくてはいけないと思います.
水落:一般の市民の方々への啓蒙という点では,今年から始まった市民公開講座が一つの大きな仕事ではないかと思いますが,これについては今年から始まるということでしょうか.
千野:今年,試みで啓蒙の手段として「市民公開講座」を数カ所で行いますが,その効果を見ながら,2002年度,どのような啓蒙活動をしたらいいかということを,改めて考えなければならないと思います.石神先生がおっしゃるように,せめて大学の付属病院,それから大きな総合病院ではリハ科を必須の標榜科とし設置し,そこで中心となる医師はリハの専門医がやるというふうに,厚労省なり文科省で決めてもらうことが大切と考えます.
石神:そうですね.市民公開講座の話に戻りますが,市民活動として思い出すのは遠藤周作先生のことです.遠藤先生が救急医療の必要性を何度もジャーナリズムで取り上げられて,現在の救急救命医療があると聞いています.リハがもっと命を救うといったことが,一般市民の中から起こってくれませんかね.今回は学会として行うわけですが,市民公開講座の枠を広げ,地方会を中心に地域密着型で動かしていってはいかがかというような方向もあると思います.今回は,関東と四国中国支部でやるのですけれど,全く異なる方法をとっています.どういったアウトプットが出てくるかによって,いろいろと方法を検討していきたいと思っているわけです.
5.国際活動
水落:次に研究活動の一環ということで,国際委員会を中心に国際活動がここ数年,非常に活発に行われていますけれど,まず昨年2月にニューミレニアムシンポジウムが行われて,これに関しての海外から来られた先生方の反応といいますか意見というのは,どういうものだったのでしょうか.
千野:私がオランダでの,第1回のISPRM(世界リハ医学会,2001年7月)に行ったときは,アジアからの参加者が来ていて,東京でのアジアの集まりはよかったとおっしゃっていました.ASEAN諸国とフィリピンの合同のリハアカデミーが3月の半ばにあり,私は招待されました.そのあと4月19日には日韓の第1回合同カンファレンスがありますし,石神先生は2月末のアメリカのリハ専門医会(AAP)に行かれます.今後の国際強調のために日本リハ医学会の役割はますます大きくなると思います.
石神:AAPではJapanese sessionというのをつくってくれました.日本から4人の研究発表が行われます.
千野:これはニュースになりますね.
石神:ニューミレニアムシンポジウムでは,アジアから多くの先生がみえましたが,シンポジウムは大変盛大であり,評判もよかったと思います.アジアには東南アジアの諸国が行っているASEAN Rehabilitation Conferenceがあり,ここには日本と韓国は含まれておりませんでした.今回の会議の後に各国の代表と会議を持ったのですが,席上,アジア全体でこういった会議を持つことは極めて大切なことだということが話し合われASEAN のメンバーからAsian Rehabilitation Conferenceに代えようということが提起されたことはニューミレニアムシンポジウムの大きな成果でないでしょうか.日本は出しゃばらず黒子に徹してきたつもりですが,自分は幹事役を受けさせられました.不幸にして昨年のアフガニスタンの問題もあり,今回は無理ですが,将来的に,リハ医学会は,アジアにもっと視点を据え,国際活動をする必要があると思います.ISPRMは,全体会議と地域別会議があるわけですが,アジア地域でリーダーとして進むことで,全体の国際活動での日本の位置を明確にできるでしょう.
水落:ところで国際活動に関して,一般の会員の方々に期待することは何かありますか.
千野:今までのニュースでも出していますけれど,やはり積極的にメンバーとして参加していただきたいですね.オリンピックではありませんが,参加しないとどうしようもない.もう一つは,やはり英語というのがどうしても大事になってきます.アジアでも英語が公用語になっていますし,EUでも問題があるとは言いながら,やはり英語が使われている.だから若い先生方には英語に堪能になってほしいですね.
石神:今度の日韓合同会議は韓国で初めてあるのですが,全体で100題ぐらいだろうと考えていたようですが,日本からは100題の応募があってよい意味で頭を抱えているようです.おそらく数百人の人たちが行くのでしょうが,国際会議に対して,興味を持つ世代が育ってきたのだろうと思って喜んでいます.
千野:いい傾向ですね.
石神:この芽をぜひ,大きくつないでいってもらいたいと思います.
千野:国際化によるリハ医療の底上げと同じように,国内でも地方会活性化で,国内での底上げが今年度のテーマとなります.日本中津々浦々まで,同じリハ医学のレベル,医療の実践が行われていくためには,地方会単位での活動が重要になります.
6.地方会の充実
水落:それでは,今,お話が出た地方会の充実というところに行きたいと思います.リハニュースでも,7号で地方会の特集をして各地方会の現状を調べたことがありました.そのまとめとして,組織率がそれぞれ低いということ,他の関連リハ職種との関係がそれぞれの地方会で違っているということ,それからリハ医学会との関係が今ひとつはっきりしないということ,この3つが問題点として挙げられたわけですけれど,これをこれから改善しようということでしょうか.
千野:執行部のプランとしては,リハ医学会員になったら必ずどこかの地方会員になるということです.例えば,関東地方にしても会員が2,000数百人いるうちの400人ぐらいです.それだと地方会としての機能ができにくいために,全員がどこかの地方会に入ってもらう.しかし会費はいらない.また,地方会費用の一部を日本リハ医学会が補助することを考えています.そうすればひとりでに,地方会のメンバーだということで活性化を図れる.地方会の勉強活動は今までどおりやればいいわけです.勉強会の会費は利益者負担として徴収する.
石神:地方会はたしかに,1995(平成7)年か1996年につくられたのですが,それ以後,地方会に対してどういった働きかけをしてきたかとの批判もありますが,結局,今まで地方会の充実を待ってきたというのが本音です.各地方の特殊性を認めた上で各地方会を活かすことがリハ医学会に対して大きなメリットとなりましょう.リハ医学会会員を各地方会の会員としてみなすといった方向性は,この千野体制の中で出てきたことは,将来的に誇るべき一歩と考えています.地方会にどんなことを期待しているのかというのは,今まで組織率が悪いとか機能しないとか言われていますが,リハ医学会の教育業務(生涯教育)などを担当してもらっています.地方会とリハ医学会との関係が希薄だったという批判があれば,責任はむしろ我々のサイドにあるのでしょう.リハ医学会と地方会を上下関係で考えるのは私はあまり好みません.地方分権といったことを,千野理事長がいわれますが,各地方会には応分の権限があってしかるべきでしょう.教育などを担ってもらう.それに対してその運営費の一部補助を行うのが当然でしょう.今回の提案が地方会とリハ医学会との関係において,何らかの形で新しい秩序というものが将来的に生まれる一つの足掛かりだと思っているわけです.地方会の充実なくしてリハ医学会の充実なしという時代がすぐそこまできています.やがて専門医会も地方会と同じような形で公式の組織になってもらいたいと思います.
水落:本日は診療,研究,教育に関して幅広い内容で,現在のリハ医学会の状況とこれからの展望について,お話しいただきました.先生方の情熱が少しでも会員の方々に伝わればと思っております.今日はお忙しいところ,本当にありがとうございました.
北海道も暖かくなり春の兆しですが,日本リハ医学会北海道地方会では訃報をお伝えしなければなりません.北海道地方会世話人として発会に尽力された鈴木重男先生(前北大医療短期大学部長)が2002年2月15日享年70歳で永眠されました.先生は,3年前の北海道地方会会長を務められ,昨年まで活発な活動をされました.つつしんでご冥福をお祈り申し上げます.
世話人会で,新世話人は大島峻,岡本五十雄,多田武夫,成田寛志,眞野行生(代表世話人),門司順一,横串算敏,渡部一郎となりました.生涯教育研修会は9月6日午前10時より「かでる2・7(札幌市北2西7)」で菅沼宏之先生,内山英一先生の講演を予定します.
例年,北海道地方会は,北海道リハ学会(道リハ)と合同開催でしたが,今年は道リハが9月6~7日に「リハビリテーション・ケア合同研究大会 札幌2002」の主催にあたるため,北海道地方会としては12月14日(北大学術交流会館)に,札幌医大脳外科寶金教授を招き,パネルディスカッション「脳卒中リハのトピックス(仮題)」などを計画しています.そろそろ第40回学術集会の準備が忙しくなってきました.2003年6月オープン予定の会場「札幌コンベンションセンター」のホームページwww.plaza-sapporo.or.jp/scc/で建築状況が確認できます.
(渡部一郎/北大リハ科)
北陸地方会は発足以来,年2回開催されており,その開催日も3月下旬と9月上旬の土曜日としてきました.これは,同じ時期に,他の学会の地方会が日曜日に開催されることに配慮したものです.地方会事務局では,これを基準に約4カ月前に開催日を決定し,会場等の確保を行った上,約3カ月前に地方会会員に開催通知を送付しております.学会誌に掲載されるのは,2~3カ月前になります.さらに,1カ月前になると,プログラムを発送しております.発表形式は,スライド,VHS,パソコンいずれでも対応できますので,機種等あらかじめご連絡いただくようにしております.特に,動画を部分的に使用されたい場合の利便が図られています.
ところで,去る2月15日(金)に北陸地方会世話人会を開催いたしました.主な内容は,日本リハ医学会地方会等検討委員会の報告に沿い,今後の地方会の運営についての意見交換でした.リハ医学会員が自動的に地方会に属する方針に関しては,世話人会の中で確認されました.次回の北陸地方会は,5月のリハ医学会総会後となりますので,新体制での開催となるかもしれませんが,その場合,以上のようなご連絡が,北陸地区のリハ医学会員全員に届くことになると思われます.これまで,地方会にあまり関心のなかった先生方もプログラムを見て興味を持たれましたら,是非参加していただきたいと思っております.
(染矢富士子/金沢大保健学科)
第11回日本リハ医学会九州地方会が,本年2月3日(日)に山永裕明会長(介護老人保健施設清雅苑施設長)のお世話で,熊本市の熊本市産業文化会館で開催されました.多数の会員の参加があり,午前中の一般演題では予定の時刻を過ぎるほど活発なディスカッションがなされました.午後の特別講演,生涯教育研修会教育講演には,九州地区以外の遠方よりの先生方も参加されていました.印象的だったのは,会長の山永先生はじめ,熊本機能病院スタッフの方々の洗練された学会運営でした.
地方会活性化の議論がありますが,それには各県レベルでの研究会を活発に行える環境作りも必要です.九州地方会では,各県で開催される研究会がより活発な活動が行えるよう,各研究会の地方会名義共催を可能とする支援策を決定しました.世話人会,総会での承認が必要となりますが,地方会名義共催により,各県での研究会開催にあたって行政からの支援が受けやすくなります.例えば,福岡県リハ研究会では,会場費の減免や設営の補助金を受けることができるようになりました.
さて,第12回日本リハ医学会九州地方会(会長:蜂須賀研二・産業医科大学リハ医学講座教授)は,本年9月29日(日),北九州市・北九州国際会議場にて開催される予定です.特別講演のほか,認定臨床医生涯教育研修会教育研修講演も予定しています.交通至便な場所でもあり,多数の皆様のご参加をお願いいたします.
(佐伯 覚/産業医大リハ医学講座)
委員長 出江紳一
1) 2001年度専門医の審査について:専門医は39名が認定され(専門医1が32名,専門医2が7名),合計で813名となりました.専門医1試験は2002年3月1日に行われ,認定委員会だけではなく,以下に記します24名の特別委員も試験および合否判定にあたりました.この場を借りて特別委員の皆様に感謝いたします.(特別委員,五十音順)石田 暉,岩崎敬雄,梶原敏夫,小池純子,小林一成,佐鹿博信,紫藤泰二,住田幹男,園田 茂,立野勝彦,道免和久,飛松好子,豊倉 穣,蜂須賀研二,原 寛美,前島伸一郎,正門由久,間嶋 満,水落和也,水間正澄,門司順一,山口 淳,山口昌夫,里宇明元(敬称略) なお,専門医2審査は本年度をもって終了しました.
2) 2001年度認定臨床医の審査について:認定臨床医は80名が認定され,合計4,979名となりました.
3) 研修施設の認定について:新規申請施設21施設を認定し,現在稼働施設数は341件です.
4) 実習研修会(仮称)について:上に述べましたとおり2002年3月をもって専門医2審査は終了になり専門医1のみになります.専門医1審査を申請する資格として3年間の研修施設での研修が義務づけられていることから,今後は研修を受けやすい環境を整えることが一層重要になります.一方で,1つの研修施設で修得できる領域には限度があり,専門医に必要な知識と技術の提示とそれを修得する機会の拡大は本委員会の重要な仕事と認識しています.そこで本委員会では本年度より実習中心の短期研修会を実施することとしました.テーマは小児リハ,社会福祉,臨床筋電図,神経因性膀胱,義肢,脊損,摂食嚥下などを検討中で,今後実施が決まり次第詳細を学会誌などで公表いたします.ご意見,ご提案などがございましたら学会事務局宛ご連絡ください.
(委員長 出江紳一)
委員長 岡島康友
すでにリハ医学38巻11号でご報告しましたように,本学会の海外研修助成制度では2002年度から,海外の学会発表以外にリハ専門施設での短期研修(研究発表・見学)も助成することになりました.Honorary/Corresponding Memberを介してお願いしています.リハニュース11号で3つのリハ施設リストをお知らせしましたが,新たに受入施設が加わりましたので,改めて以下にまとめます.(施設名,責任者,内容,時期・期間)①Jefferson Medical College and Moss Rehab (Philadelphia, USA),John L Melvin, MD,リハすべて網羅,歩行解析や運動コントロール研究室あり,1~2日もしくは5~180日.②Rehabilitation Hospital of the Pacific (Hawaii, USA),Sungyul Kim, MD (G Okamoto, MD推薦),リハすべて網羅,言及なし.③Baylor College of Medicine (Texas, USA),Martin Grabois, MD,疼痛リハ,脳卒中,脊損,頭部外傷,切断など,言及なし.④Royal Perth Hospital (Shenton Park, WA, Australia),John K Ker, MD,頭部外傷,脳卒中など,5月~11月,期間限定なし.⑤Klinik Berlin,Free University (Berlin, Germany),Karl H Mauritz, MD,歩行評価,片麻痺上肢機能訓練,嚥下評価など,9・10月以外,2週以内.⑥McMaster University School of Medicine (Ontario, Canada),David Harvey, MD (J Basmajian, MD推薦),リハすべて網羅,リハに関連する研究も多分野,7・8月以外,期間要交渉.
2002年度の募集はリハ医学38巻12号でお知らせし,すでに締め切られましたが,来年度応募の計画をたてる際の参考にしていただければ幸いです.なお本助成制度ができてから3年が経過し,当初と比べて現在は大分,円安となっています.本年度からは円安分を補填した助成ができる予算を検討させていただいておりますので,応募者には一層の励みとなりますよう,また会員の先生方にはご理解をいただけますよう,お願いいたします.
(委員長 岡島康友)
委員長 本田哲三
2002年度診療報酬の改定について:すでに新聞報道などで皆さんもご存じかと思いますが,2月20日に診療報酬の改定が発表され,リハは体系的な見直しがなされました.
概略をかいつまんで述べますと,従来の複雑・単純といった理学療法・作業療法・言語聴覚療法の分類が個別療法・集団療法に変更され,各20分を1単位として1日合計4単位まで(但し,回復期リハ病棟入院料・早期リハ加算・外来移行加算を算定している患者―すなわち,脳血管障害・脊髄損傷・大腿骨頚部骨折・骨盤骨折・上腕骨折・開胸/開腹術後患者など―は6単位),個別療法は理学療法・作業療法・言語聴覚療法それぞれ1日3単位までで,前述の(回復期リハ病棟入院料・早期リハ加算・外来移行加算を算定している)患者を除いて月に11単位以上は逓減されます.このように区分の変更と算定回数による制限が導入されました.診療報酬については(従来の)理学療法・作業療法(Ⅰ)の複雑と改定後の個別療法2単位を比較して試算すると24%減,(Ⅱ)~(Ⅳ)でも13~32%の減となります.また回復期リハの「まるめ」も1,700点から1,680点へ微減しました.さらにリハの前提として適切な計画と定期的な評価が求められています.一方,あらたにリハ総合計画評価料(老人に加え一般でも認められる),言語療法の施設基準(Ⅰ)(Ⅱ),および早期リハ加算が新設され,早期理学療法・早期老人理学療法が廃止されました.
以上,全般的には厳しい改定結果ですが,診療報酬体系が整理され,言語療法の大幅引き上げや早期・集中的なリハ重視の傾向が明確になってきたのが特徴です.本委員会では今後も引き続き改定の影響を見極めつつ,次回へ向けて適正な報酬体系を検討していく予定です.
(委員長 本田哲三)
委員長 赤居正美
昨年8月11日(土),11月10日(土),本年2月16日(土)と3回の委員会を開催し,審議を行っています.
1) リハ機器に関する用語の整理:2002年12月までに刊行予定の新しいリハ用語集に向けて,リハ機器に関する用語を選択し,必要と判断された150余の用語を評価・用語委員会へ提出しました.
2) 運動療法機器の分類:運動療法機器の分類素案のために,前提となる各運動療法の分類を行っています.関連諸学会(整形外科学会,PT・OT学会など)とすりあわせを行い,学会案としてまとめていく予定です.
3) 作業療法機器の分類:同様に作業療法機器の分類素案を作る作業を開始しました.新年度の向けて議論を深めていきたいと思います.
4) 2002年度活動計画及び予算調書案:2001年度の計画の継続として上記の(2),(3)を中心に,活動計画をまとめ年3回程度の委員会開催を予定しています.また委員の交代も行われる見込みです.
(委員長 赤居正美)
川崎医科大学にリハ医学講座ができたのは昭和50年4月のことで,今年は開講して28年目となる.現在は第二代の椿原彰夫教授のもと,助教授1名,講師1名,助手3名,研修医5名,大学院生4名の体制で臨床,教育,研究にあたっている.教室の臨床研修システムは初代の明石謙教授がNew York大学のシステムを雛型にして確立したものであり,リハ全般にバランスのとれた臨床家を多く育ててきた.現在もそれは継承され,疾患や患者ニードの変遷に合わせてさらに発展している.最近の目玉は,特殊外来として筋電図診と嚥下診を開設したことである.
リハ科における筋電図診の対象者は主に整形外科からの紹介患者で,末梢神経損傷,神経絞扼症候群,脊髄障害の診断と評価を担当することになる.当科では医局員全員が紹介医に治療方針について示唆を与えられるレベルの技能獲得を目指している.毎週火曜日の午後に医局員全員が集まって実施し,診療終了後にカンファレンスを開催し,症例の経験を全員で共有できるようにしている.我々の判断が患者の予後を左右するわけなので,徹底的に討議され,白熱すると深夜にまで及ぶこともある.嚥下診は木曜日の午後で,各担当の嚥下障害例を集め,医局員全員で嚥下ビデオレントゲン検査とビデオ喉頭内視鏡検査を実施している.検査には担当セラピストも参加し,その場で活発なディスカッションが行われる.ここでも症例の経験を全員で共有する機会が配慮されていて,臨床技能を効率的に学ぶことができる.筋電図診,嚥下診とも最近は院内だけでなく近隣の医療施設からの紹介患者が増え,徐々に地域に浸透している現状である.研究面でも重点項目であり,2001年度の大学院修了者は筋電図,嚥下障害の基礎研究で学位を取得している.
現在,開院30年を迎えた大学附属病院は増改築の真っ最中である.本年7月には350床の新病棟が完成予定であり,リハ科ではそれに先駆けて37床の回復期リハ病棟の認可を受けた.増改築完了後にはリハ科はさらに増床が約束されている.また,当教室は中四国地方で唯一のリハ医学講座であるため,西日本一円から回復期リハ病棟開設のために医師の派遣要請が激増している.これはリハ医療にとってまたとないチャンスであり,質の高いリハ科医を多数養成して願い出に応えるべく,体制づくりの真っ最中である.ただいま医局員を募集中で,新卒者だけでなく研修医修了者や他科経験者も大歓迎です.詳しくは教室のホームページをご参照ください.ぜひ皆で一緒に学びましょう.
(塚本芳久)
川崎医科大学リハビリテーション医学教室
〒701-0192 岡山県倉敷市松島577
Tel086-462-1111(代),Fax086-464-6066(医局)
E-mail: rehamed@med.kawasaki-m.ac.jp
HP: http://www.kawasaki-m.ac.jp/rehamed/
横浜市総合リハセンターは,JR新横浜駅より徒歩10分,サッカーW杯決勝戦が開催される横浜国際総合競技場の隣にあります.この交通至便の地に昭和62年,社会福祉法人横浜市リハ事業団を運営主体とし,障害のある乳幼児から高齢者に対して専門的かつ総合的なリハを行う目的で設置されました.現在,診療所(入院19床),身体障害者更生施設,身体障害者通所授産施設,知的障害児通園施設,肢体不自由児通園施設などを有し,また建物内に横浜市障害者更生相談所,渡り廊下で障害者スポーツ施設横浜ラポールと繋がり,総合リハセンターの名が示すとおりの構成となっています.
現在の医局メンバーは,伊藤利之センター長以下リハ科4人と,整形外科,神経小児科,児童精神科の医師6人の合計11人です.また,センター内のリハスタッフはすべての部門の合計でPT20人,OT12人,ST12人,ケースワーカー11人,臨床心理士9人,体育指導員1人などを擁しています.
横浜市総合リハセンターの特徴としては,まず地域・在宅リハが第一に挙げられます.居宅での機能訓練,家屋の改造など,実生活の場で具体的なリハを必要とする方々に対し,地域サービス部門という専門の部門とそこに所属するケースワーカー,PT,OTが医師と,時には工学技師,建築士(すべてセンター内に常勤)と共に訪問します.そして,福祉や介護保険サービスのスタッフとともに目標設定やケア計画立案を実施しています.
その他の業務としては,外来診療,更生相談所嘱託医としての補装具判定,入院・入所者への診療などがあり,リハ医にとって必要な診療のすべてがあるといっても過言ではないでしょう.現在の入院・入所者の原疾患をみましても,脳卒中・脊髄損傷・神経筋疾患・脳性麻痺・二分脊椎・脳外傷と多岐にわたり,また外来でも骨関節疾患・切断などの方も数多く来られますので,全分野をカバーしています.
当センター周辺には,前述した横浜国際総合競技場や横浜アリーナといったイベント会場ばかりでなく,新横浜ラーメン博物館や,横浜の名所旧跡など観光スポットも多数ございます.特に地域・在宅リハに興味がおありの先生方や,広くリハ対象疾患を概観したい先生方のお越しをお待ちしています.
(岡田真明,高岡 徹)
横浜市総合リハビリテーションセンター
〒222-0035 神奈川県横浜市港北区鳥山町1770
Tel045-473-0666,Fax045-473-0956
会長 三上 真弘
3年前,第39回日本リハビリテーション医学会学術集会会長に指名され,色々と準備を進めてまいりましたが,本番まで残り僅かとなり早く終わって欲しいという気持ちと,準備のためにもう少し時間が欲しいという気持ちが交錯している今日この頃です.
まず準備として行ったことは会場の決定でした.東京で多くの会場を必要とする学会を開くとなると,ホテルか第37回学術集会が開催された東京ビッグサイト,旧都庁跡に建てられ交通の便が良い東京国際フォーラムぐらいしかありません.ホテルは展示場を広くとれないという欠点があり,ビッグサイトは展示場は広いが会議場が少ないということで,会議場数も多く展示場も広い国際フォーラムを選びました.
また,期日については例年は6月の初旬のことが多いのですが,2002年はサッカーのワールドカップが日韓共催で開催されるということで,これと重なることは絶対に避けなければならないと考え,色々情報を集め6月1日ということがわかりましたので5月の初め9日(木),10日(金),11日(土)の3日間に決定しました.
会場,期日が決まり次の悩みは演題募集の締切りを何日にするかということでした.締切り後のこちらの作業を考えると早いほうが楽なわけですが,あまり早いと演題の応募が減る可能性があるということで,抄録集を会誌リハ医学4月号と一緒に会員の皆様に送るという目標を立て,それから逆算しぎりぎりの線,1月9日を締切りに設定しました.幸いなことに皆様のおかげで演題応募数が575題あり,ほっとしているところです.またスタッフの頑張りによりリハ医学3月号にプログラムを掲載することもできました.
特別プログラムの企画やメインテーマの決定は前回の学術集会終了後評議員の先生方にアンケートをお送りし,そのご意見を参考に運営委員会スタッフで議論をして決定しました.この作業は大変楽しいものでしたが,準備の中で最も重要であり,また頭の痛い問題は費用のことです.東京国際フォーラムはJR山手線有楽町駅の目の前,東京駅からも歩いて数分の所にあり,建物も斬新で申し分ないのですが,欠点は使用料が高いということです.したがって赤字を出さないためには無駄な支出をなくし,できるだけ収入を上げるということですが,収入のなかで一番大きいのは参加費ですので,一人でも多くの会員の皆様がご参加していただけますようお願いいたします.
学術集会の開催は学会の最も重要な活動です.しかし今は会長が選ばれ,その会長がプログラムの企画から運営,お金集めまですべてを行うという旧態依然のやり方で行われており,最近の社会変化から考えると新しい方法に変えていく必要があるのではないかと,お金集めに苦労し,赤字を心配しながら考えているところです.
日本リハビリテーション医学専門医会長 椿原 彰夫
第13回リハ・カレントトピックス&レクチャー(日本リハ医学専門医会学術集会)は,獨協医科大学リハ科学教授の古市照人先生(写真)の主管によって,2002年1月26日(土),27日(日)に東京都大田区立池上会館において開催されました.専門医をはじめとして,約200名のリハ医が参加し,活発な討論が繰り広げられました.
今回のテーマは卒前・卒後教育,特にコア・カリキュラムが取り上げられました.特別講演1の講師には東京医科歯科大学上席学長特別補佐の佐藤達夫先生をお招きし,文部科学省の医学における教育プログラム研究・開発事業委員会委員長としての貴重なお話が拝聴できました.コア・カリキュラムについてはご承知の先生方が多いと思いますが,莫大な量に膨れ上がった医学の知識を単に詰め込むというこれまでの臨床前医学教育から,患者中心の医療の実践,安全性への配慮,信頼される人間関係,課題探求・問題解決能力の育成などを中心する医学教育へと改革が求められています.将に,リハの理念にも合致する医学教育と言えます.統合的なカリキュラムや基礎科学の重要性,OSCEやチュートリアル,選択制カリキュラム,クリニカル・クラークシップ等を導入した新しい実習形態が話題となりました.
特別講演2の講師には日本赤十字武蔵野短期大学教授の畑尾正彦先生をお招きし,医師卒後臨床研修の必修化に向けてのお話をいただきました.リハ医学の実践には種々の専門領域の研修が不可欠であり,専門医試験の合格にはこれらの研修が必須です.そのための研修が制度化されることは,ある意味において理想的であると言えます.
シンポジウムは,特別講演の2つのテーマが発展される形で展開されました.コア・カリキュラムについては間嶋満先生と石田暉先生が,卒後プログラムについては山鹿眞紀夫先生が担当されました.卒前教育では,コア・カリキュラムに提示されたリハ医学に関する項目をどのように講義内容に取り入れていけばよいかが,今後注目されるところです.卒後教育では,臨床研修の必修化に伴って,リハ医療を目指す医師が増えるよう検討が必要であると考えられます.ただし,進路の阻害になるのことを懸念する声も上がっています.
一般演題は数少なく8題でしたが,1題当たりの割り当て時間が長かったため,十分な討論ができたように感じました.膀胱機能の薬理学的研究やペア磁気刺激法については新しい知見が示され,興味深く拝聴できました.里宇明元先生のデータベース化に関する提言は,わが国のリハ医学における最重点課題です.専門医会としても積極的に協力したいと考えます.
次回は11月2日(土)~3日(日),川崎医療福祉大学にて開催の予定です.
国際委員会担当理事:平澤泰介,委員長:岡島康友,担当委員:越智文雄
日本リハ医学会は2001年度から,海外リハ専門医の日本国内研修を始めました.この制度は海外の前途有望な若手リハ医を日本に招き,日本のリハ施設を見学してもらうとともに,自らの専門の研究分野について研修施設において発表していただき,日本と海外のリハ医の交流を図ることを目的としています.研修生は年間2名以内で40歳以下(2002年度からは45歳以下)のリハ専門医であることが条件となっています.欧米からの先生には30万円,アジアからの先生には20万円の補助を行います.
2001年度研修に来られたのは,米国からNorthwestern大学Rehabilitation Institute of ChicagoのPaul H. Lento先生,韓国からYonsei大学のDeog Young Kim先生です.Kim先生は2001年11月26日~30日の間,北海道大学リハ医学講座,神奈川リハ病院を,Lento先生は12月10日~14日の間,昭和大学リハ科,岡山大学整形外科・リハ部で研修しました.Kim先生36歳,Lento先生35歳といずれも次代のリハ界を担う若手のリハ専門医です.
Kim先生は1990年韓国のYonsei大学を卒業.1998年韓国リハ医学会の専門医になり,現在Yonsei大学リハ科のFull time instructorで,脳卒中のリハと運動解析を専門としています.北海道大学においては「リハ分野におけるボツリヌストキシンの使用」,神奈川リハ病院では「臨床歩行解析」の発表が行われました.
Lento先生は1992年米国のTemple大学医学部を卒業.2000年にアメリカリハ医学会の専門医となっています.現在Northwestern大学Rehabilitation Institute of ChicagoのClinical Instructorで,スポーツ外傷,脊椎疾患のリハを専門にしています.昭和大学においては「腰痛・神経根症に対する硬膜外ステロイド使用」,岡山大学では「疲労骨折の診断と治療」の発表が行われました.
両者ともその研究分野に合わせ日本リハ医学会で研修先を選定しましたが,活発に討議が行われたと聞いています.研修終了後のアンケートでも研修者,研修受け入れ施設双方ともに好評で,所期の目的は達成できたと思います.国際交流の一環として,今後もこの事業を続けていきたいと思いますので,本学会各先生のご協力をお願い申し上げます.
最後になりましたが研修を快く受け入れてくださった北海道大学の眞野先生,生駒先生,神奈川リハ病院の大橋先生,昭和大学の水間先生,岡山大学の千田先生に深謝いたします.
評価・用語委員会 塚本芳久
A 辞書によるとholisticという語を作っている“holo”という語は“完全体”という意味で,本来,分割してはいけない(分割できない)全体ということです.この意味からすれば人間を臓器や心に分割してはいけない,その総体として一個の人間を捉えるということでしょう.一方,comprehensiveという場合には,どちらかというと“個人”そのものに対するものの見方というよりも,個人をその生きている社会(家族,地域,国)の中で捉え,個人が社会で幸福に生きるために不可欠な要素としてリハの機能を考えるといったようなニュアンスが強くなります.一個の人間はこの社会と多くの要素でもってつながっている,そうしたつながりの一つひとつをリハの守備範囲として含めるということです.人間を心身両面に対する配慮から捉え(holistic~人間観),彼らが生活を構成していく上で必要としている医療,教育,福祉に及ぶ種々の支援を,継続的な期間の中で適切に提供する(comprehensive~リハの実施における運用論)というようなニュアンスの使い分けがあるように思われます.ですから,一見同じような使われ方をしているこれらの用語は,実はその意味合いが異なります.
リハにおいてholisticな対象者の捉え方を配慮することは,先人が言い遺したメッセージのなかに明確に見ることができます.
「リハビリテーションは手や足を細切れとして扱うのではなく,丸ごと人間として扱わなければならないのだから,リハチーム員は互いに連絡して一つの焦点,すなわち自立的生活や社会復帰をめざす人間に焦点を絞らざるを得ない.そのためにはできるだけ広い視野からの情報を収集し,その上に立って多角的かつ統一的なアプローチが必要なのである.リハ医学の場ではしばしば総合評価と方針決定のための会議が頻繁に行われ,それぞれの専門家が情報と意見を出し合っている.医師は昔ながらの独裁者でなく,各職種間のすぐれた調整者であるとともに,重大な瞬間に際しては意志決定者としての役割を果たすことが求められる.医療は本来機械の部品修理のようなものであってはならないのだから,本来あるべき人間の医学に回帰するための旗印こそリハビリテーションであることを忘れてはならない」(砂原茂一著『リハビリテーション』岩波新書)
医療全般でholisticという語がさかんに使われ始めたということの背景には,臓器別縦割り医療の限界を超えようという意識が多くの医療者に共有され始めたと捉えることができます.
(評価・用語委員会 塚本芳久)
担当理事 土肥 信之
このたび日本リハ医学会の事業として市民公開講座を開催いたしました.その背景として医療改革や介護保険の普及などによる医療福祉ネットワークが構築されつつありますが,健康増進や障害予防が地域を中心として意識の高まりを見せています.このような状況でリハビリテーションが医療と福祉の分野で重要な役割を果たすことは言うまでもありません.リハ科が正式診療科になり,「リハビリテーション」という言葉が市民権を得てきましたが,まだまだその正しい知識が市民の皆様方に浸透し役立っている状況とは言えません.地方会の活性化とともに市民講座による働きかけで,リハ医療の正しい普及を図ることを願っております.2001年度は関東で大規模講座1カ所,中四国で中規模講座4カ所を企画いたしました.開催ならびに後援していただきました会員の皆様に厚く御礼申し上げます.
「高齢社会を元気で暮らすために」をテーマに2月23日(土)13:00~16:00,川崎医療福祉大学講義棟2601号室にて開催しました.ふれあいセンターや保健所でのパンフレット配布ならびに新聞広告によって,約200名が受講されました.大半が非医療関係の市民で,高齢社会に不安を抱いている方や,障害者を自宅で介護されている方,すでに障害者となられた方が熱心に聞き入っておられました.講演内容は「脳卒中の予防とリハ」(椿原彰夫)と「高齢者介護の具体的方法」(本山須賀子倉敷リハ病院副看護部長)で,特に本山先生には実技を含んだ実践的な内容をご指導いただき大変好評でした(写真).高齢社会に不安を抱いている方々が多く,寝たきりの予防や疾病に関する質疑応答が活発に繰り広げられました.
(椿原彰夫/川崎医大)
出雲市民会館では3月3日(日),長谷川幸子日本医大看護婦長の講演「リハ医の妻が脳卒中で倒れたとき-発病から看護婦への復職まで」に続き,「ここを充実,地域リハ」のテーマでの意見発表(利用者,職員双方から)が行われました.限られた期間での準備に加え,当日は大ホールが空いておらず,また特別な動員もかけなかったため,心配しておりましたが約350名の参加がありました.杖や車椅子での参加が約40名あり,県健康福祉部長の挨拶,県健康推進課長の座長・司会もいただき,講師・発表者から障害体験に基づく急性期リハ医療従事者の心がまえの指摘,患者・家族心理をふまえた地域への復帰プログラムへの紹介がありました.参加者の感想は大変好評でした.
(木佐俊郎/島根県立中央病院)
「サンキュー(3/9)リハビリテーション―きいて・みて・ふれる市民のつどい―」のテーマで市民公開講座を開催しました.文化会館では,石神理事が,高齢者の介護を実演を交えて講演され,拍手喝采を浴びられました.座談会では,宇都宮市長も参加し,街づくり,社会参加,地域リハシステムなどについて,活発な意見交換がなされました.体育館では,「介助犬の実演コーナー」「スポーツコーナー」「各種相談コーナー」「介護機器展示実演コーナー」「福祉機器展示実演コーナー」「住宅改造モデル展示コーナー」と盛り沢山で,ぽかぽか陽気の中,1,000名を超える方々が「きいて・みて・ふれる」リハを体験されました.
(高柳慎八郎/とちぎリハセンター)
要介護状態の最大の原因となっている脳卒中にテーマを絞り,その予防と在宅ケアについて「脳卒中の予防とリハ」として3月9日(土),松山市総合コミュニティーセンターにて開催しました.愛媛大老年医学科の小原克彦先生に「高齢者の循環器疾患について,特に脳卒中の予防(再発を含めて)」と題して,生活習慣病と脳卒中の関係とその予防について高血圧・糖尿病・不整脈・高脂血症・肥満・喫煙などのリスクと健康管理を話していただきました.茨城県立医療大の大田仁史先生は「なるな寝たきり,つくるな寝たきり」で脳卒中の方の心理状態を説明し,孤独や閉じこもりからの脱却の重要性とご自身の母親の介護実例をお話しされ,大変感銘的でした.今回の開催にあたって,愛媛県をはじめ行政,医療,福祉など11機関の後援を得ました.松山市周辺を中心に新聞や医師会報や各機関の情報に折り込みを入れて約2カ月かけて参加を呼びかけ,312名の参加で会場は満席となりました.看護・介護・在宅ケア・福祉関係者200名,一般市民112名であり,ほぼ満足すべきリハ啓蒙活動ができたと思います.
(首藤 貴/伊予病院)
「健やかに老いる」をテーマに3月10日(日),広島大学医学部同窓会館にて開催されました.まず土肥信之広島県立保健福祉大学学長(写真)から開催趣旨が開会挨拶として行われ,続いての講演「身体の自立と心の自立」では「やる気って何?」「心の動き」「身体と心」「自立って何?」「孤独とストレス」が興味深く印象的な内容で話されました.吉村理は「脳卒中にならない方法」と題して久山町研究を中心にわかりやすく話しました.介護とリハビリ研究所の岡部正道先生の講演は「家庭でできるリハ:生活リハ」と題して市民公開講座として,リハ専門職が聞いてもなるほどと思わせる内容でした.
(吉村 理/広島大)
成田 寛志
札幌医大リハビリテーション部
今回のソルトレークパラリンピックは,「アメリカによるアメリカのために」行われたオリンピックと同様に,組織委員会に強くコントロールされ,競技種目が限定された競技性の高い大会であった.私はスレッジホッケーチームの帯同であったが,他に日本選手団本部の医療班は選手団ドクターとして大阪市大整形外科小林章郎先生と看護婦は三井仁美さんであった.ユタ州立大学の学生宿舎の日本選手団居室の一角で診察室,トレーナールームをそれぞれ確保することができたが,日中はほとんど競技会場が仕事場であった.
クラス分けに関しては,パラリンピックや世界選手権などの国際大会でしか国際クラス分けを受けることのできない現状がある.このためにクラスの変更のみならず,現地に来てからの再検査で出場資格がなくなり,各国代表選手が競技に出場できない事態が生じていた.特に視覚障害のクラス分けは厳密に行われ,検査機器(LETHINOMAX)を用いて最大矯正視力の計測後,視力検査が複数の眼科医の立ち会いのもとに施行された.70名のエントリーされた視力障害者に対し36名が検査対象となり,10名がクラス変更,2名が最も軽度の視力障害B3にも該当しないという結果になった.この中には日本選手も1名含まれていた.また,LW(Locomotion winter)のクラス分けでも障害が軽度であると再判定された日本選手が数名でた.日本国内におけるクラス分けが国際クラス分け委員による判定と異なっては問題があるので,冬季競技に関しても常にIPC国際クラス分け委員として活躍する人材が必要である.
また,アルペン,クロスカントリー,バイアスロンにはクラスの別な選手をいっしょに競技させるパーセンテージ制の導入されていた.これは競技種目の削減が目的で,将来のオリンピックとの共同開催のための方策と思われた.例えばクロスカントリーのN選手はLW6/8で,障害の重度な選手よりもタイムがよかったにもかかわらず,相手の持っているパーセンテージが低く,最終集計で4位となった(金メダル獲得選手のドーピングが発覚し繰り上げ3位となった).同様にアルペン,クロスカントリーのLW10とLW11の競技に関してもパーセンテージが大きく成績に反映していた.
さて,選手村ポリクリニックは24時間体制で,各国チームドクターの要望でX線,MRIのみの撮影も可能であった.特にトレーラー搭載のMRI(1.5T)はスポーツ外傷・障害の早期診断に有効であった.また,スレッジホッケーの会場であるEセンターの医務室ではCアームによるX線撮影が可能で,スポーツ現場での早期診断・治療の体制はさすがスポーツ医学重視のアメリカと感じた.また,選手のドーピングコントロールにも立ち会ったが,オリンピック同様の厳密さがあり,日本選手にも普段からアンチドーピング教育の必要性を感じた.
さて,唯一の団体競技であるスレッジホッケーは大会前メダルの可能性が期待されていた.緒戦は対アメリカ戦で第2ピリオドまで0対0の互角の試合展開であった.第3ピリオドはさすがに体力差がでて結局3対0で負けたが,選手の実力以上の頑張り,一戦ごとに強くなる選手を見ていて十分に世界に通用するチームであると感じた.これからの選手強化と選手の掘り起こしに期待がかかる.1998長野と同様に多くの観衆に声援を送られ選手・監督・コーチと感動を共有することができた.
身障スポーツにおいても医学・医事情報を関係者に常に伝えている日本オリンピック委員会の医学サポート部会のようなシステムが必要と考える.医事委員会を2006年トリノに向けて早急に充実させなければ,長野の遺産で勝ち得た今回の銅メダル3個をも獲得できない事態となる可能性がある.トリノで日本の人々の期待に応えるためには医・科学サポートの体制づくりをオリンピック,パラリンピックを越えた次元で行い,選手強化に係わる必要がある.
ソルトレークでのパラリンピックは長野ほどマスコミに取り上げられず,メダルも若干寂しかったなどと思っていましたら,診療報酬改"低"が決まり,桜も早く咲いてしまい,例年になく忙しい春先でした.
リハビリテーションについては算定方法の大枠から変更があり,医療情報システムを導入している病院では短期間での変更で大変苦労されたかと存じます.昨年12月に「保健医療分野の情報化に関するグランドデザイン」を出した厚生労働省ですが,情報システムの更新がどれだけ大変か全く分かってないのではと思わせる改定でした.今後の情報化もどこまで進むのか心配になっています.システム変更を考えるとどう考えても早くても10月実施でなければ無理だとこぼしながらも4月になってしまい,リハニュース13号発行の時期に重なりました.
診療報酬改定の内容に関しては,いろいろ評価も分かれるのでしょうが,学会の公式見解にはできない意見も多々あると思われ,リハニュースの出番ではと思っております.寄稿のお願いなどの際には宜しくお願いします.
本号は,年度末に診療報酬の改定が加わり忙しい時期にご執筆いただいたり,時間的にぎりぎりの記事をお願いもしましたが,おかげさまで鮮度のよい記事も掲載できたかと思います.ご協力いただいた先生方に感謝申し上げます.
(根本明宜)