日本リハビリテーション医学会 社会保険等委員会
朝貝 芳美,本田 哲三(委員長),及川 忠人,大島 峻木佐 俊郎,住田 幹男,田中宏太佳,花山 耕三,担当理事:石田 暉
はじめに
日本リハビリテーション医学会社会保険等委員会では介護保険制度導入によるリハビリテーション(以下,リハ)医療への影響と介護保険の問題点を調査し,本学会として次期改正に向けて厚生労働省に働きかける資料とすることを目的に,平成13年4月にアンケート調査を実施したので報告する.
対象と方法
日本リハ医学会研修施設345施設の施設長宛にアンケートを送付し,施設長または担当者からの回答を得た.アンケート調査の概要はリハ医の介護保険への関与および介護保険制度のリハ医療への影響について,訪問リハ・通所リハの問題点について,介護保険制度・要介護認定の現状と問題点について,今後リハの立場から必要な対応について,その他介護保険の問題点そして改良についてである.アンケート調査内容に関しては障害保健福祉委員会と連携してアンケートを作成した.
結果
発送総数は345件.回収件数は203件で回収率は59%であった.
調査対象施設は国公立病院(76),公益病院(52),私立病院(71)であり,病院のベッド数100床以上が186施設92%であった.
併設施設としては訪問看護ステーションが(50)施設で,更生施設(45),在宅介護支援センター(39),老人保健施設(30),介護老人福祉施設(9),通所リハ(3)であった.
1) 介護保険との係わりと影響
・係わりがある,少しあるが174施設で87%であった.
・主治医意見書の作成数は月平均1~5通が83件,46%と多かった.
・ケアマネージャーの資格を持っている職員がいる病院は多いが,業務を行っているのは67施設で40%にすぎなかった.
・介護認定審査会委員をしている職員のいる病院は110施設であり67%であった.
・病院との係わり:介護保険対象患者の診察が99施設と多かった.
・介護保険導入の入院期間への影響:ほとんど影響なしが(100)施設で,短縮・少し短縮(31),延長・少し延長(30)であった.
・入院期間に影響を受けた病棟:一般病棟が(59)施設で,医療保険適応療養型病床群(16),介護保険適応療養型病床群(10)であった.
・療養型病床群について:ないが(96)施設で,医療保険適応のみ(27),医療保険と介護保険適応が混在(19),介護保険適応のみ(1)であった.
・医療保険適応の療養型病床群から介護保険適応の療養型病床群に転換しない理由は,医療行為やリハが限定されるが112施設と多かった.
・自宅復帰率:不変が(106)施設で,増加・少し増加(36),減少・少し減少(20)であった.
・介護保険における在宅支援体制について:乏しいが(63)で,どちらでもない(51),乏しくない(51)であった.
・外来患者数:不変が(123)施設で,減少・少し減少(24),増加・少し増加(13)であった.
・外来通院から通所リハへの参加:不変が(76)施設で,増加・少し増加(59),減少・少し減少(5)であった.
2) 訪問リハの問題点について:サービス提供事業所の不足が(79)で,サービスの報酬・加算が少ない(59),訓練スタッフの介入が少ない(59),サービス提供側と利用者側の要求が合わない(50),ケアマネージャーの理解が不足(49),機能維持としては不充分(25)であった.
3) 通所リハの問題点について:訓練スタッフの介入が少ないが(71)で,サービス提供事業所の不足(55),通所することが困難(50),訓練時間が少ない(43)であった.
4) 介護保険制度,要介護認定について
・脳卒中例の要介護認定時期:必要があればいつでも(67),維持期(44),回復期(44),退院時維持期(29)
・要介護認定結果の通知について:受けていない(59),時々受けている(44),ほとんど受けていない(42),受けている(32),要望したことがない(12)
・予想した要介護度と介護認定結果の違い:少しある(90),ある(38),どちらとも言えない(34),ほぼない(23),ない(0)
・要介護度に応じた支給限度額:適切・ほぼ適切(65),どちらでもない(63),低い・やや低い(57)
・ケアプラン内容の通知について:受けている・時々受けている(61),受けていない(59),ほとんど受けていない(59),要望したことがない(11)
・ケアプランの内容について:不満足・やや不満足(76),どちらでもない(59),満足・ほぼ満足(39)
・ケアマネージャーとの意見交換:ほとんどない(69),時々ある(62),ない(51),頻回にある(12)
・車椅子支給への影響:ある(74),少しある(49),ほとんどない(39),ない(24)
・住宅改造への係わり:時々係わる(67),係わる(53),係わらない(36),ほとんど係わらない(36)
5) 介護保険の矛盾点・問題点(図1,図2)
6) 今後リハの立場から必要な対応について(図3)
その他必要な対応
リハおよびサービスの内容について
1. 調査:機能維持が成し遂げられているか,サービスの内容が適切か,機能回復が不充分な状態で介護を受けていないか
2. 老健施設や療養型病床群のリハゴールの標準化
3. リハ専門医を増やす
4. 地域リハの考え方を浸透させる
5. 必要なサービスを適格に選び自立的生活を送るというリハの理念の普及啓発が必要
6. リハ前置主義の徹底
7. サービス内容をより生活に密着したものにする
リハ評価について
1. 改善努力への評価
2. ADL評価方法の普及活動
3. 介入による効果の評価
4. 要介護度とADL評価の関連などの調査
要介護認定について
1. 要介護度認定必要性の再検討
2. 主治医が介護認定審査会に係わるべき
介護保険制度について
1. 住宅改造費上限の増額 4件
2. 在宅リハスタッフの充実 2件
3. デイケアが広がらない要因の調査分析
4. チームでの評価やカンファレンスにも報酬点数をつけるべき
5. 老健のリハ加算の増額
7) その他介護保険の矛盾点・問題点そして改良について
矛盾点・問題点について
1. ケアマネージャー・ケアプランの質についての問題(リハ知識の不足)
2. 車椅子支給の経済的補助についての問題
3. 急性期病院退院時の問題(介護保険を充分に使いこなしていない,リハゴール前に介護施設に移行し適切なリハを受けていない,介護施設の入所待ち期間が長く回復期リハが長期化する)
4. 家族の施設志向が強い
5. 入所施設のベッド数が不足
6. 用語の問題(通所リハ・通院リハ・通所介護が混乱,介護認定上の麻痺の定義のずれ)
7. 自立支援,介護予防の視点が不充分
8. 要介護認定により受けられるサービスを充分受けていない
9. スタッフ間の連携不足
要介護認定に関する改良について
1. 介護者の有無など社会的環境の配慮
2. 65歳未満の障害者特定疾病の拡大
3. 主治医意見書内容のフィードバック
介護保険制度に関する改良について
1. ケアマネージャーの業務量や報酬の見直し
2. 低所得者への配慮
3. リハの必要性を強調すべき
4. 家庭介護がなくても在宅生活ができる制度に
5. 手続きの簡略化
6. 給付上限の撤廃
7. 地域におけるサービス担当者会議の充実
8. 地域における教育や連携・調整システムの構築
考察およびまとめ
今回のアンケート調査は日本リハ医学会研修施設に対して行われ,限られた範囲での調査ではあったが,介護保険が導入され1年余り経過した時点での,主にリハ医療からみたさまざまな課題が浮きぼりになった.
介護保険との係わりでは,主治医意見書は月5通以下~書かないが56%,介護認定審査会に委員として参加している医師は27%と少なかった.
問題点としては要介護認定では痴呆や高次機能障害者への認定,制度では退院を決めても施設に空床がないことや医療と福祉の連携や地域における介護サービスに関するものが多く,充分なケアプランが立てられていない現状がみられた.
今後はリハ前置主義を強調し,急性期,回復期において充分なリハが提供され,その後の介護保険でも要支援・要介護者の自立支援に向けて介護保険にかかわるすべての者が連携し努力することが重要である.介護保険のあらゆる段階においてリハの果たす役割は大きく,リハを専門とする医師の役割として,主治医意見書には要介護認定に必要な情報を提供するだけでなく,要介護者に最も適切な介護サービスを組み合わせ,個々のサービスの目標を設定するために必要な助言を行うことや介護認定審査会への参加など要介護者に対して質の高いリハサービスを提供するために積極的な参画1)や,リハの必要性の根拠となる効果判定,有効性などについて科学的なデータを積み重ねていくさらなる努力も求められている.
我々はリハ医学の立場から介護保険制度を急性期・回復期リハから継続される慢性期あるいは維持期のリハ医療の重要な制度と認識し,より良い制度にすべく建設的な意見を出す必要がある.また地域における介護保険に係わるシステムに参加・支援し,質の高いシステムになるように多方面にわたる啓蒙活動が必要と考える.今後とも介護保険制度に対してはさらに現状の課題を把握し,それらの課題・実状に見合った対策や提言を行っていく必要があると思われる.
文 献
1) 三浦公嗣, 千野直一, 石川 誠, 石神重信: 介護保険とリハビリテーション医学. リハ医学1999; 36: 221-233