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リハニュース No.36

2008年1月15日

  1. 特集:リハビリテーションにおける電子カルテ

  2. 第45回学術集会:演題募集中

  3. INFORMATION

    認定委員会

    システム委員会

    社会保険等委員会

    教育委員会

    診療ガイドライン委員会

    関連専門職委員会

    東北地方会

    九州地方会

    北海道地方会

  4. 障害があるからこそスポーツを

  5. 専門医会コラム:学術集会報告

  6. REPORT:第31回日本高次脳機能障害学会(旧日本失語症学会)

  7. REPORT:中部・東海地方会主催市民公開講座

  8. REPORT:第34回国際福祉機器展

  9. REPORT:第42回日本脊髄障害医学会

  10. REPORT:第23回日本義肢装具学会

  11. REPORT:第37回日本臨床神経生理学会

  12. 質問箱:PRE

  13. 医局だより:関西医科大学

  14. 広報委員会より

特集:リハビリテーションにおける電子カルテ

浜松医科大学医学部附属病院医療情報部 木村 通男

1.はじめに―電子カルテは何をリハビリテーションにもたらすか―

 医療のIT(情報技術)化は、情報の連携を推進する。電子カルテ以前から、オーダシステム導入により、リハビリテーション(以下、リハ)部門でも、紙カルテが届くのを待たずに、画像や検査結果などを参照することができるようになった。(図1、2)
  次いで、いわゆるペーパーレス電子カルテを導入すると、検査結果、処方、画像だけでなく、所見、看護記録までも参照することができるようになった。逆の言い方をすれば、電子カルテ導入病院ではなくても、CT、MRI 画像などはリハの現場でカルテを待たずに見える可能性が高い、ということである。
  さて次は、施設間連携である。患者がフィルムなどを持ち歩くのではなく、CD にすれば、より多い情報を他施設から得てリハの診療を行うことができる。紹介状は文書形式の電子的標準化が進んでいるが、これに地域連携パスや、リハ依頼書などを含められることが期待される。またこの方法は、簡便であり、管理だ返却だの手間が減る。但し、そのためにはデータの形式が標準的である必要がある。
  本稿では、まず最近用いられるEHR(Electronic Health Record)という言葉の意味から入り、医療安全と電子カルテ、「電子カルテ2008年問題」、ペーパーレス記述について、などの最近の電子カルテ関連のトピックスに触れ、連携型電子カルテの実例としての静岡県版電子カルテの紹介を、このシステムを用いた厚生労働省の全国展開事業計画の紹介とともに行う。

 

図1(左) 病院情報システムのリハオーダ(写真提供:SBS 情報システム)
図2(右) 病院情報システムでの画像等の参照

2.電子カルテ、EHRの定義― 「電子カルテ」は学術用語ではない―

 「電子カルテはすべてを解決してくれる」という初期のナイーブな夢は、数多くの先行導入病院から漏れ伝えられる悲鳴や不満によって脆くも消え去り、電子カルテ導入補助も過去のものとなった今、電子カルテは見直し期に入ったと言えよう。従って今こそ、初期に喧伝された、患者サービスの向上、臨床支援データの提供、経営指標の提供、物流の最適化、といった事柄の、冷静な評価が求められている。つまり、それぞれの病院の置かれた状況で、何が可能で、何が期待できるかを明確にすることが重要である1)。

 電子カルテそのものの定義については、慣例的にはペーパーレス医療情報システムを示すことが多いが、療情報学会(http://www.jami.jp/)によるもの2)、保健医療福祉情報システム工業会(http://www.jahis.jp/)によるものなども出ている。前者はペーパーレスであるかどうかよりも、オーダ種が多く、データが迅速に参照でき、患者説明に寄与するなどといった機能が大事であるとしている。

 筆者は今まで事ある毎に、この日本医療情報学会の定義に基づき、「電子カルテ=ペーパーレス」ではないことを主張してきた。従って後述の静岡県版プロジェクトについても、ペーパーレスは前提ではないが、ためらうことなく電子カルテという言葉を用いた。(本稿これ以後も「電子カルテ」という言葉を使うが、筆者の意図はこれである。) しかし、この言葉の慣例的意味、つまり「ペーパーレス所見記述による医療情報システム」の流布の広さの前に、誤解の解消には今や不毛を感じる。つまり「電子カルテ」という言葉は、範囲も、対象も、手法も、明確でないのである。この不明瞭さのため、個別の商談において売り手買い手の間でイメージの違いを生じ、グランドデザインのアクションプランの数値的目標(2006 年までに400 床以上の病院で普及率60%)にすら、本末転倒な批判が向けられている。具体的には、電子カルテといえば、書類スペースが要らなくなるのみならず、経営データも出て、物流管理も行われ、注射時の安全確認も行われる、と病院側は考えたとしても、これらの実装には数十億かかるが、メーカ側の思惑では5 億の予算では、とても物流管理やバーコード安全確認機器までは含まない、といったイメージの違いである。

 明確な定義を打ち出せなかった責任の一端は日本医療情報学会にもあり、副会長として力及ばざるを恥じている。しかしとにかく、「電子カルテ」は、学術用語でも、商取引用語でもなくなってしまった。範囲の定義のない学術用語はありえないし、商談を全うできない商取引用語など有害である。

 ペーパーレスそのものが不適、不可能と思っているわけではない。情報の流れが紙媒体から開放されることで、患者待ち時間の減少などは期待できる。全職員の情報入力や全文書のスキャンが徹底されれば、このメリットを受けることができる。気をつけたいのは、データがコンピュータに入ったからと言って、いろいろな情報がどんどん出てくるという幻想である。データは目的を持って収集されインフォメーションとなり、これを目的を持って分析してインテリジェンスとなる。後で有用な情報が得たいなら、データの形式、記述方法をしっかりと定める必要がある。例えば、患者の姓と名がつながって入力されれば、姓による検索が困難となる。外国人はどう扱えばいいのであろう? 検査結果のエクセルファイル「0231234, 20060525, 5E035, 34, 6, 40, U, F」を渡されて、これを検査結果データとしてデータベースに収容するには、どれが患者ID、日付、検査項目コード、結果、基準値、単位、ステータスかわからなければ無理である。これらを実現するのが、JLAC10などの標準コード、HL7 3)などの標準データ形式である。

 気づいてみれば、「電子カルテ」などという言葉を使っている国は、日本だけになってしまっている。そもそも電子カルテの英語訳は何であろうか? EMR(Electronic Medical Record)、などが考えられる。しかし今や、この言葉はほとんど議論に出てこない。今各国で、国家的プロジェクトとして議論されているものは、EHR( Electronic Health Record)であり、施設内にとどまらず、患者中心に、施設間連携を前提とした医療情報システムである。大切な患者の情報を如何に扱うかがまず大事であり、そのために個々の施設がどのような情報システムを持つかは、それから引き算されて二次的に考えるべきものである。筆者は“EHR”に、「連携型保健医療情報システム」という訳を与えたい。「連携」は前提であり、「保健医療」とし「診療」としなかったのは、診療行為以外の、例えば介護情報、医事情報もまた大事な構成要素であるからであり、「生涯型」としないのは、生涯データベースとするかどうかは患者(国民)本人が決めることで、前提ではないからである。

3.電子カルテは医療安全に寄与するか?

 

図3(左) PDA によるバーコードの読み取り
図4(右) ボトル個装の2 次元バーコードの厚生労働省案の例(写真提供:ファイザー(株))

 図3は指示書のバーコードをPDA(ハンディ情報端末)で読み、指示通りか確認している様子である。もちろんこれにより取り違いはかなり防止される。しかしこの方法によるリスクは何であろうか?

・オーダが変更され、紙の指示書との食い違いがある場合
  紙の指示書とオーダシステムデータとどちらを「正本」とするか、という問題である。折衷案は危険である。しかしオーダシステムのデータを正本とする場合、情報システムがダウンしないということが求められ、設備への投資は当然高額になる。 

・オーダが変更され、紙の指示書との食い違いがある場合
  紙の指示書とオーダシステムデータとどちらを「正本」とするか、という問題である。折衷案は危険である。しかしオーダシステムのデータを正本とする場合、情報システムがダウンしないということが求められ、設備への投資は当然高額になる。 

 最近の動きとして、図4 に見るような、薬剤個別(シート単位、アンプル単位)に2 次元バーコードが標準化されようとしていることを挙げたい。今までも箱単位ではJAN コードなど流通用のコードが印刷されていたが、医療では生物由来製剤などでトレーサビリティが求められ、ロット番号や有効期限なども必要であり、今までのバーコードでは小さい薬剤・医療材料個別には印刷できなかった。(コンビニでは賞味期限切れのチェックがレジでなされている。あれは各チェーン独自のコードを更に貼っているためである。)

  しかし、厚生労働省医薬食品局の委員会での検討が進み、ようやく標準形式が定められることになった。今まで先進的な施設では、自前でバーコードを貼り付けていたが、その貼り付けコストや、貼り間違いの問題点が指摘されていた。今後はメーカが責任を持って印刷することが期待されるので、物流と現場での安全確認のためのこのバーコード利用は広く普及すると思われる。但し、最近は電子タグを付ける話が国際的に進んでいる。

4.電子カルテ2008年問題

 2002年、03年に厚生労働省は半額補助を行った。この時電子カルテシステムを導入した施設が、リプレース時期を迎えるのが2008年ごろからである。

 最大の問題は、電子カルテの所見や看護記録の記載に関しては、標準的データ形式がないため、もしメーカを替えようとすると、莫大なデータ移行費用がかかる、という点である。画像はDICOM 規格、検査結果や処方はHL7規格といった標準的データ形式があるため、これらのデータはメーカを替えても安価に移行できる。しかし所見や看護記録の記述は各メーカによって詳しさが異なるため、完全な移行が困難である。これについては、J-MIX という、電子カルテのタグ項目名の標準表記、という規格がすでにMEDIS-DC((財)医療情報システム開発センター)によって4 年前にできており、これに従った詳細度であれば、異機種間の移行が 可能となる。具体的には、「初診時神経学的所見」「○月○日の××科△△先生の所見」といったレベルである。ただ、文章として読める、というレベルであり、「Babinski 反射(+)」といった検索はできない。今後は電子カルテシステム導入に当たっては、導入するシステムを使い終わるとき、どのようにデータを掃き出すか、ということを考え、上記のような標準的掃き出しができることをチェックすべきである。

 もう一つの問題は、各施設とも、当初使いにくい電子カルテシステムを、あれこれ注文をつけて、費用を払い、各施設の運用に合うように改善してきたと思われるが、そういった改良が、同じメーカでも最新バージョンに反映されているかと期待しても、実は入っていないことが多い、という点である。となると、また費用をかけて各施設用に改善する必要がある。この理由は、実は細かい運用(例えば、誰が混注するか、誰が検体を運ぶか、など)は、施設ごとに想像以上に異なっている、という点にある。これに対する即効性のある解決は見つからない。今後は病院ごとにその運用を、例えばUML形式で記述し、どのような点に自施設の特徴があるかということを認識する必要があろう。

5.電子カルテのテンプレート記述

 図5は医師の所見記述用テンプレートの例である。いろいろなケースを聞いていると、折角作っても医師は所見記述にあまりテンプレートを使わず、キーボードで入力するケースが多い。なぜならテンプレートでは十分に記述した気になれないばかりでなく、キーボードで文章を入力する方が速くなるからである。従って、テンプレートを準備するより、よい医学辞書や、自分の作ったワープロ文書を切り貼りする機能を喜ぶ。

 医師のテンプレートに対する姿勢について加言するなら、折角テンプレートを用いて時間をかけて入力しても、そのデータは後での検索の対象となるか、という点が重要である。検索できないのなら、早く記述できる方がよい、という判断があるのであろう。

図5 典型的な電子カルテによるテンプレート所見記述例

6.事例紹介:静岡県版電子カルテ

 電子カルテの目的は、1)医療の安全、2)業務改善、3)施設間連携の推進、4)臨床研究・教育への寄与、5)データの可用性向上などであるが、先に述べた日本医療情報学会による電子カルテの定義は、必ずしもペーパーレスであることを求めていない。得られる機能と開発金額を考慮した場合、後三者は比較的安価に実現することができる。

 静岡県版電子カルテ4, 5)は、2004、05 年度静岡県予算で、これら3 者を実現する、多くの施設で共用できる部品を静岡県病院協会のプロジェクトとして開発した。公開入札による受注者は5 社JV(企業共同体)(富士通、NEC、SBS 情報システム、ソフトウエアサービス、NTT データ)であった。但し医事会計、オーダエントリは含まれず、これらについては別途の調達となる(図6)。具体的には、オーダ系からオーダ内容、検査結果、処方などを受け取るゲートウエイをはじめ、診療記録管理(いわゆるペーパーレス電子カルテ所見記述)(図7)、看護情報支援(図8)、PACS、臨床研究DB、紹介状管理(図9)、定型文書作成支援の機能が実現されている。

 

図6(左) 静岡県版電子カルテシステム:概念図
  図7(右)診療記録管理システム

 

図8(左) 看護情報支援システム
  図9(右)診療情報提供システム

 県下の各病院は、これらの中から必要と思うものを選択して、無料で利用することができる。従って診療記録管理を用いてのペーパーレス運用は必須ではない。但し紹介状管理については、施設間連携の和を広げるため、必須とした。
また、紹介状管理機能を用いて、患者の希望に応じて検査結果、処方内容をCDで渡すこともできる。このCDについて、診断書料などと同じように、例えば3,000 円など、病院の定める料金を徴収してよい、但し厚生労働省の標準的電子カルテ推進委員会最終報告書にある標準的データ形式によること6)、という通知が医政局から2006年6 月に出た7)。これがインセンティブとなって、標準規格準拠の医療ITシステムが普及することが期待されている。図10 はそのCDで、図11 はそれを広報するポスターの例である。

 

図10(左) 電子診療データCD 患者の求めに応じ、医師が判断して発行、診断書料などと同じように費用を請求できる。中身は処方、検査結果、画像など客観データのみであり、病名、治療指針など、カルテ情報は入っていない。

 

図11(右)患者への情報提供のポスター(静岡での取り組み)

 2006年1月より、パイロット病院2カ所(沼津市立病院、袋井市民病院)での本稼動がはじまっており、2007年に5 病院が導入済み、2009 年までに47 病院が導入希望あるいは検討中である。筆者の浜松医大病院でも、電子紹介状、電子診療データ提供、定形文書作成支援などを導入済みである。
一方、診療所用情報システムに紹介状管理機能を付加する開発も、静岡県医師会のプロジェクトとして進行している。受注者は、三洋電機、富士通、SRL、BML、サン・ジャパン、パルステック工業の6 社である。
また、既存のHISで、これらの機能を内包して満たす場合も、紹介状連携や、臨床研究DB へ、定められた規格を用いることができれば、可である。これらを可能とした基盤は、標準化である。
既存各社オーダ系からの情報は、ISO となっているHL7 v2.5 であれば、上記JV 構成社以外のどの社のオーダ系からの情報も受けられる。また、PACS がDICOM 規格によることは言うまでもなく、紹介状もHL7 CDA R2に準拠した形式である。勿論これらの基盤として、薬剤コード、検査コード、病名コードの標準化が進んだことも、今回このプロジェクトを開始する判断にとって重要であった。

7.静岡県版電子カルテの目的

 静岡県版電子カルテプロジェクトに際して、筆者が考えた目的は表の通りである。

 筆者は特に2番目を重視している。第25回医療情報学連合大会のシンポジウム1 4)でも述べたように、医療費の無理な削減による医療の荒廃を防ぐためには、医療費のGDP比率を先進国並みに向上させなければならず、そのためには患者、国民から見ての医療の透明性は不可欠であると考えるからである。また、県の税金を用いての事業であるため、県民の目に見える満足を提供する必要も感じているためでもある。

 しかし、患者にカルテを全面開示する、と言っているのではない。所有権が患者に帰属するといわれる、客観的データについてのみの開示であり、それは、検査結果、処方内容、画像などである。診断、治療計画、各種レポートなどは、所有権が患者と医療職両方にあると言われており、確かに治療に影響を及ぼすケースも少なくない。但し静岡県におけるアンケート結果では、開示する項目について、あまり医師の判断に依らない方が望ましいとの意見が多数を占めたことは注目に値し、そういう姿勢が、透明性の向上により寄与すると考える。

8.SS-MIX:国の事業となった静岡県版電子カルテ

 2006年度の厚生労働省医政局の事業で、この静岡県版電子カルテの全国配布のためのツールや機能強化がなされている。内容は以下に紹介する、病院向け、診療所向け、受け取る側のサーバの3つである。今後このシステムの全国の病院への展開が予想される。但し筆者は、このソフトウエアそのものが広く使われることを望んでいるわけではない。図6 で「標準化」と示された部分が大事であり、これらが標準的になされるならば、他の方法での機能実現も歓迎である。

a. 病院向けソリューション:SS-MIX H シリーズ
 病院向けソリューション(SS-MIX H シリーズ)は、静岡県版の仕組みの中で、各社のオーダ系から送られるHL7 v2.5 の患者基本、処方、検査結果などを受け取る・ゲートウエイ、電子紹介状、患者への情報提供CD を作成し、受け取る・紹介状管理システムからなっている(図13)。国による事業化により、全国の病院に対し、静岡県下病院と同じように、ソフトウエアパッケージは無償である。(ハード費、メンテ費、インストール費は当然別途必要である。)これと同じような診療所用パッケージもあり、CMS など診療所用電子カルテベンダから販売されている。

図13 上流のHIS よりHL7 v2.5 でオーダや結果を受け取り、電子紹 介状や患者への電子診療データCD を作成し、受け取る。

b. SS-MIX アーカイブストレージ  
 SS-MIX アーカイブストレージは、患者への電子診療データCD を診療所、病院に患者が持ち込んだ際、いきなり外来で再生するのではなく、患者の許可を得て(例えば、病診連携部で)データを拝見し、外来や病棟ではその施設の医療情報システム上でブラウザで見る、という仕組みを提供する。提供条件は上記と同じである。

9.標準的病院情報システムがリハに与える影響

 まず、病院情報システムを形成する数多くの部門システムが標準的に接続されることでもたらされる各部門への影響は、転記作業が減る、ということであろう。検査部門、あるいは外注、外部施設からの検査結果や、処方歴、などはそのままリハ記録や各種書類に載せることができ、プロブレム記載などを医師の記録と共有することができる。 

 次に、システム移行(特にベンダが変わる場合)の混乱、再入力が減り、次期システムを選ぶ選択肢が増える、ということも、前述のように、目指したことの一つである。

 そして、外部の施設からの患者データを見ることが増える、という点も予測できる。地域連携パスはその先駆けであるが、今後はそれが増えていくと考えられる。しかし外部からの情報を読者諸氏が見る機会が増える、ということは、諸氏の記述を外部の施設が、あるいは患者が見る機会が増える、ということでもある。医師による電子カルテの貧しい記述を改善するには、記述が様々なところ、部門、職種によって見られるようにすればよい、そうすると恥ずかしくなり記載が改善する、という話がある。緊張を強いられる話ではあるが、こうやって患者からの医療の透明性は向上していくのであろう。

10.Final Remarks ― 「和而不同」 ~同一化でなく標準化―

 今回静岡県によって作成されたソフトウエアが、決して唯一の使用すべきシステムである、などとは思っていない。各システムの利用は各施設の決定によるし、紹介状、臨床情報DB の出し入れについて標準的であれば、別のパッケージで機能を包含してもかまわない。また、静岡県版電子カルテは上流のオーダ系からの情報の流れを一方通行にしたため、逆方向の流れ、例えば看護支援システムからオーダを改変するといった、クリティカルパスウェイの機能は持たない、といった点もある。

 しかし、紹介状、電子診療データ提供、長期保存用臨床データなどは標準化されていなければ利点が生まれない。もしデータ形式がバラバラであれば、紹介状を受ける側は様々なブラウザを用意する必要があり、データとして取り込むなどは夢の夢である。またこういったデータをベースとした新しいビジネス、例えば診療データを預かり、健康アドバイスするサービスなど、は各データ形式ごとに作らねばならず、事業化が困難である。

 従って、あるベンダが、クリパスも含めて全部シームレスな電子カルテを作ったとしても、もし紹介状、電子診療データ提供、定型文書、臨床データベースへの出入りが標準的であるならば、歓迎である。実際、袋井市民病院にて稼動中の、ソフトウエアサービスのe ? カルテはそのようになっている。また、診療所用システムについては、SRL、パルステックはORCA(日医標準レセプト)を利用しており、サンジャパンのシステムの内部はMMLのDB である。これらも、電子紹介状・電子診療データCD が定められた規格に適合しておれば、全くかまわない。

 図14は筆者の電子カルテ論である。科によって、病気によって、記述されるべき項目、詳細度は異なる。従って各科用の、各病気用、またリハ用の電子カルテがあっていい。

図14 電子カルテ構築論

 しかし、いかに詳細な内容が異なるとはいえ、客観的な、検体検査結果、画像、処方歴などのデータ形式は普遍的であろう。これらをまず土台としてしっかりHL7、DICOM で押さえ、情報の共同利用性を高める。そして、各科、各診療施設をまたがる、紹介状、各種レポート、退院時サマリーなどは各分野の特徴を失わず記述されるべきである。

 リハの立場からは、まずは画像の現場での参照を可能とすべきであり、今後は指示書、他院からの紹介状、連携パスなど、診療施設間の情報交換が重要となるので、これらがどこから着たものでも受け取れるべし、と、病院経営サイドに、施設間役割分担への保険点数の配慮の方向性を示しつつ、主張されるのがよいであろう。これらを実現する方法が、実は医療情報の標準化なのである。

参考文献

  1. 木村通男:現状で実現可能な電子カルテの範囲~標準化の課題と意義~。日本病院会雑誌2005; 52: 264-288
  2. 木村通男: 電子カルテの定義に関する日本医療情報学会の見解【解説】定義までの経緯と見解ポイント。月刊新医療 2003; 4:166-169
  3. 木村通男:HL7 医療情報標準化規格-その概略。医療科学社、東京、2002
  4. オーガナイズドセッション2、標準化基盤による地域連携電子カルテ。第25回医療情報学連合大会論文集2005。土居弘幸:静岡県版電子カルテシステムプロジェクト。木村通男:静岡県版電子カルテ―医療の透明性、情報の可用性を目指したその技術的側面―。小野良和:静岡県版電子カルテの開業医システムとの電子紹介状を介した連携。清水俊郎:標準化された医療情報交換規約を採用した電子カルテ構想。古田輝孝:静岡県版電子カルテシステムクラス概念での迅速検索を可能とした臨床情報検索システムD*D。谷 重喜:災害時に医療を支援するコンピュータシステム
  5. 木村通男:全国へ広がる「静岡県版電子カルテ」―医療の透明性向上と標準化基盤の整備。新医療7 月号 2006;68-73
  6. 厚生労働省標準的電子カルテ推進委員会最終報告、2005( 新医療7月号2005;75-78 にも採録されている。)
  7. 豊田 建:患者へ提供するための診療情報標準化。新医療8月号2006; 171-176 静岡県版電子カルテについては、http://www.shizuoka-bk.jp/、厚生労働省標準的診療情報交換推進事業SS-MIX については、普及促進コンソーシアムが設立され、http://www.hcibc.com/ss-mix/ を、それぞれ参照されたい。

第45 回日本リハビリテーション医学会学術集会 ◎ 演題募集中!
― リハビリテーション医学の進歩“評価から治療介入へ” ―

 第45回 学術集会会長  江藤文夫

 新年あけましておめでとうございます。
 年あけに当り、皆様の益々の御清栄を祈念いたします。

 さて、第45回学術集会につきましては、会長、顧問ならびに東海大学を中心としたスタッフ一同、総力をあげて、鋭意、準備を進めております。
 本年の学術集会は6 月4日(水)、5日(木)、6日(金)の3日間、横浜市にあるパシフィコ横浜 会議センター・展示ホールAにて開催いたします。会場は東急・みなとみらい線(みなとみらい駅)、新幹線(JR新横浜駅)、飛行機(羽田空港)のアクセスに優れ、交通至便な場所にあります。

 学術集会の内容につきましては、メインテーマあるいは招待講演の外人講演などの骨組みがありますが、その肉付けには皆様の多大なお力添えをいただかなければなりません。とくに、2題のパネルディスカッションは演題を公募して議論を深める企画です。リハ医療はカスタムメイドであり、その実践にはグループスタディでは細かく吟味できない問題があります。高次脳機能やリスク管理はそのよい例と言えます。そこで、難渋例を症例報告してもらい、参加者、座長、演者間での意見交換やコメントを通して、リハ医療上の工夫やポイントを検討したいと考えています。積極的なご応募をお願いいたします。

 学術集会ホームページ(http://www2.convention.jp/reha2008/) には、特別講演、招待講演をはじめ、最新のプログラム内容を随時、掲載・更新いたしますので、是非御覧ください。

 一般演題の受付登録は12月5日(水)より開始しておりますが、締め切りを1月28日(月)まで延長いたしました。締め切り日間際にはアクセスが集中して御迷惑をお掛けすると思いますので、まだ登録されていない方は、どうぞ余裕をもっての登録をお願いいたします。

 1年後に横浜開港150 周年を迎える会場周辺は賑わいを高めています。息抜きにクイーンズスクエアへ、一足のばして元町・中華街はいかがでしょうか。みなとみらい線は、ほぼ会場に乗り入れており、移動は容易です。皆様の多数の御参加を心よりお待ちしております。

たまくすの木
横浜開港資料館の中庭にある通称「たまくす」は、横浜が小さな農漁村であったころからこの地にあり、1866(慶應2) 年の大火、関東大震災の被害をうけてなお、今日に豊かな葉を繁らす有形文化財である。

 

 

INFORMATION

認定委員会

1.専門医資格を有した認定臨床医の資格更新手続きの簡素化について
現行では専門医と認定臨床医の両方の資格をお持ちの方にはそれぞれの資格更新が別々に行われており、手続きが非常に煩雑な状況となっています。この問題を解決するために平成21 年4 月1 日から随時専門医の資格更新時期に併せて同時に認定臨床医の資格更新を行うことを可能とし、手続きの簡素化を図ります。この場合、認定臨床医の資格更新に必要な単位数は前回認定臨床医資格更新後からの年数に応じて1 年40 単位として換算した単位数となります。更新登録料については専門医、認定臨床医同時更新の場合も、単独更新の場合と同じ料金となります。なお、専門医の資格更新時期が参りましたら先生方にはご連絡をさせていただきます。詳細については学会誌45巻1号をご参照ください。  

2.指導責任者資格更新について
指導責任者の資格更新については「指導責任者の認定要領」に基づき5 年ごとに資格更新のための指導責任者の調査を行います。したがって、認定期間が平成20年3月31日までの指導責任者においては平成20年4月30日を締め切りとして指定の実績報告書に記入・提出いただくことになります。該当の先生方には通知をお送りいたしますのでお願いいたします。詳細については学会誌45巻1号をご参照ください。  

 (委員長 菊地 尚久)

システム委員会

 当委員会はこれまで情報管理システムの構築へ向けて具体的検討を重ねてまいりましたが、このたび、システムの開発委託について(株)ダイナコムとの仮契約に至りました。この契約は紙面審査を経た4 社と面接を行って見積もり内容を比較検討した上で、コストと信頼性についての厳正な審査を行った後、理事会での承認を得たものです。なお、事務局内で運用している事務処理システムの一部についても、会員管理にかかわる部分については管理委託を(株)ダイナコムに順次移行することとなりました。

 現在、事務局スタッフと協力しあい、2008 年7 月の公開を目標として開発作業を進めております。まずは会員用Web ページを作成して会員ID 管理・掲示板・メール・アンケートなどの機能を実装し、次年度以降は研修ポイント決済、会費・研修会費等の電子決済にも機能拡張を検討していく予定です。具体的な機能の作り込み、試験運用のスケジュール調整や管理体制の構築など、まだまだ課題は山積ですが、システムの運用を通じて会員相互のスムーズな情報交換、事務手続きの負担軽減、通信コストの削減をはかり、本学会の発展に寄与していきたいと考えております。今後とも皆様のご理解、ご協力を宜しくお願い申し上げます。

 (副委員長 山田 深)

社会保険等委員会

 平成19 年4 月のリハ料再改定に対するアンケートを7月に行い、その結果は学会誌11 月号に掲載しました。これによりますと、算定日数上限の除外対象疾患が拡大されたことについては肯定的に評価されていましたが、一方リハ医学管理料の新設・疾患別リハ料の逓減性・複数医療機関におけるリハ料が算定不可・回復期リハ病棟の要件などについての不具合が指摘され、現行のリハ料に関する診療報酬体系には多くの問題点が内在していることが確認できました。

 このアンケートの意見を参考にし、リハ医学会の「リハ料改定に向けての提案」が作成され、リハ医療関連5 団体協議会においてリハ関連協会の合意を得て、10 月下旬にリハ関連団体による日本医師会との懇談会に社保担当理事が臨み、関連学会の賛同を得る努力がなされました。また日本医師会には、(1)疾患別リハ、(2)維持期リハ、(3)回復期リハ病棟入院料のそれぞれについての問題点を整理した要望書が提出されました。厚生労働省の担当課にも直接リハ医学会の意見が伝えられました。

 11 月28 日に開催された中医協・診療報酬基本問題小委員会では、(1)疾患別リハ料における早期加算と逓減性・リハ医学管理料について、(2)回復期リハ病棟における評価や専従医要件について、(3)集団コミュニケーション療法の新設、(4)障害児(者)リハについて、が論点として取り上げられました。今後の論議の行方を十分に注視していく必要があると思われます。

 (委員長 田中宏太佳)

教育委員会

初期臨床研修におけるリハ科研修の実態と問題点、今後のあり方に関するアンケート調査

 平成16 年4月から新たな臨床研修制度が義務化され、卒後医学教育のあり方は大きく様変わりしました。リハ医学教育においても現状の問題点を踏まえ、より望ましい指導環境や教育システムの構築が急務と考えます。そこで日本リハ医学会研修施設(全424 施設)の指導責任者を対象とし、初期研修の実態調査を行いました。アンケートは7~8月にかけて実施し、303 施設(回収率71.5%)から回答をいただきました。以下に集計結果の概略をお示しし ます。これらを参考にしたうえで、今後の学会としての取り組みを検討していきたいと思います。

  • 全体の94%がリハ科研修は有用と回答し、研修内容として望まれるのは、チーム医療、障害学、廃用症候群、QOL 向上の視点、急性期リハ、地域・在宅医療など、全ての診療科に共通するテーマが多かった。約80%の回答がリハ研修の義務化を望んでいた。
  • 183 施設がリハ科研修可能と回答していたが、過去3 年間で実際に研修を実施したのは93 施設に留まった。多くは、卒後2 年目で志望科未定の研修医であった。
  • 年間ローテーター総数は65%の施設が2 名以下と少なく、研修期間は68%の研修医が1 カ月、30%が2 カ月で、4 カ月以上は6%に留まった。
  • 初期研修義務化により「研修医の数が減少した」「全く来なくなった」などの深刻な問題が生じている施設もあった。
  • 研修の内容は学生実習に近いものや講義、見学を中心としたものも見受けられた。少しでもリハ医療に接する機会を増やし、またチーム医療や地域リハを含めたリハ医療の実践体験が重要との意見が多かった。

(豊倉 穣)

診療ガイドライン委員会

 診療ガイドライン委員会では各策定委員会がそれぞれ独自の活動をしている。脳性麻痺リハガイドライン策定委員会では2/3 くらいの項目で「推奨」「エビデンス」「解説」が出揃い、内容・項目間の整合性確認作業を平成19 年11月に行った。

 呼吸リハガイドライン策定委員会の参加した『呼吸リハビリテーションマニュアル・患者教育の考え方と実践』が平成19 年11 月に刊行された。

 臨床研究・調査のためのガイドライン策定委員会には「提案されている脳卒中リハデータバンクを含めて今後の学会としてのデータマネージメントのありかたを検討して欲しい」との命が理事会から下り、データを集めることにより得られる利益、負担(金銭的、人的、その他)の大きさをまとめて理事会に報告した。

 脳卒中リハガイドライン策定委員会は、脳卒中治療ガイドライン全体の改版に向けて既に平成19 年夏にリハ学会員に対するパブリックコメントプロセスも終えている。しかし、脳卒中治療ガイドライン全体の改版が平成20 年春に行われると伝えられたため、平成19 年末までの文献検索・加筆をする作業を再開している。

 安全管理・推進のためのガイドライン策定委員会、リハ連携パス策定委員会は本を出版した後、一時休止状態に入っている。今後の新たな策定委員会の必要性を検討中である。

 (委員長 園田 茂)

関連専門職委員会

 この2007 年10 月から、任期を終えた前田真治先生の後任として私が委員長を拝命いたしました。委員は5 名で、永田雅章先生、馬庭壯吉先生、田中尚文先生、染谷富士子先生ですが、永田先生以外は、私を含めて2006 年度(染谷先生は07 年10 月)以後任命されたフレッシュな委員で、担当理事上月正博先生と事務局のご指導のもとで活動を継続しています。

 近年、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)などの専門職養成校は増加し、現在2007 年養成校1 学年の定員数はPT 11,646 名、OT 6,827 名と20 年前の10 倍以上となり、PT 在校生総数(4 学年分として)が全国就業PT 総数(4,300人)に匹敵する増加です。療法士数増加はリハ医療の発展に貢献しますが、優れたチーム医療の質の向上には、リハ専門医の療法士卒前卒後教育への関与は重要です。

 2007 年度は、06 年度8 月に回収したリハ専門医への関連専門職教育アンケートを解析し、第43 回総会(神戸、6 月、5 演題= 委員全員)、第4 回ISPRM(ソウル、6 月、2 演題)、第4 回専門医会(札幌12 月)で「関連専門職教育におけるリハ科専門医の需給について」を学会発表報告しました。全リハ専門医の48% の有効回答において、30% が養成校教育での講義など非常勤講師として出向き、56% がリハ医自身の所属施設にて養成校卒前実習生受入、カンファレンスなど卒前教育に関与していた。現在は、リハ医向けアンケート結果を踏まえ、養成校向けアンケート内容について検討しているところです。

 (委員長 渡部一郎)

東北地方会

 平成19年10月20 日(土)に、第22 回東北地方会、専門医・認定医生涯教育研修会(主催責任者:弘前大学医学部保健学科 岩田 学先生)が青森県弘前市・弘前大学医学部保健学科・総合研究棟6 階大会議室で開催されました。一般演題13 題が発表され、活発な討議が行われました。次回の東北地方会、専門医・認定医生涯教育研修会(主催責任者:東北厚生年金病院神経内科 遠藤 実先生)は、平成20 年3 月22 日(土)にフォレスト仙台[仙台市青葉区柏木1-2-45(Tel 022-271-9340)]で開催されます。

 (事務局担当幹事 金澤雅之)

九州地方会

 第23 回地方会学術集会のご案内です。平成20 年2 月10 日(日)、金谷文則幹事(琉球大学整形外科学)の担当で、沖縄コンベンションセンター(沖縄県宜野湾市)で開催致します。プロ野球やJ リーグのキャンプ時期と重なります。また、連休中ですので早目の宿泊や交通手配をお願いします。午前中は一般演題、午後は12:30~総会、12:45~ランチョン形式での講演(専門医・認定臨床医研修会)を開催します。いつもとは午後の開始時間が異なっていますのでご注意ください。講演は、①高次脳機能障害とリハ・豊倉 穣先生(東海大学)、②皮膚冷却刺激下での筋力トレーニング・大国生幸先生(東邦大学)、③地域リハの現状と課題・浜村明徳先生(小倉リハ病院)です。ふるってご参加のほどお願い致します。

 (事務局担当幹事 佐伯 覚)

北海道地方会

 北海道地方会のこれからの予定をお知らせします。

  3 月15 日13 時から北海道大学学術交流会館で専門医・認定臨床医生涯教育研修会を行います。演題と演者は「パーキンソン病のリハ・ 中馬孝容先生(北大病院リハ科)」「小児リハの実際とこれからの展望―脳性麻痺の診断と治療を中心に・松山敏勝先生(道立子ども総合医療・療育センター総合発達支援センター長)」「慢性腰痛の病態構造と運動療法・赤居正美先生(国立身体障害者リハセンター病院副院長・研究所部長)」です。

  4 月26 日に札幌医科大学臨床大講堂で北海道地方会を行います。一般演題の募集(締切2 月1日、詳細は郵送済み)があり、また、教育研修講演として「北海道難病医療ネットワーク連絡協議会成立の経緯と現状の問題点・島功二先生(国立病院機構札幌南病院副院長)」「リハ医療と診療報酬・道免和久先生(兵庫医科大学リハ部教授)」の2 講演があります。

 昨年から病院主催など小規模な研修会でも基準を満たせば教育研修講演として5 単位が認められるようになりました。これは規則で(2)?g と呼ばれているものです。多数の申請をお願いいたします。詳しくは学会誌44 巻4 号またはリハ医学会ホームページをご覧ください。

 (代表幹事 生駒一憲)

障害があるからこそスポーツを(3)

バリアフリーダイビング

 今回の事例は「スキューバダイビング」をとりあげたい。
 なぜ、ダイビングなのか。障害があってもできるスポーツにはいろいろなものがあるが、その中でダイビングは、小中学生から高齢者まで年齢の幅が広く、様々な障害に対応できる種目である。また行う場が、他のスポーツが屋内やグラウンドなどに留まるのに対し、最低プールから、メインは海しかも海中であり、障害者に特別な場所ではなく、一般の人と同じ所である。必ず「バディ」というペアを組み、他にガイドや同じグループになる人と一緒に潜る。前後の準備や出入りの場面では自然にみんなが助け合う。競技スポーツではなく、最低限のルールを守れれば、潜る深さや時間や水中での活動はその人に合わせられる。

 K さん、64 歳は、スナックマスターをしていた51 歳の夏、バスにはねられ脳挫傷を負った。記憶障害を伴う左片麻痺となったが、けがから2 年で屋内杖、装具歩行が可能となり、受傷前10 年間のダイビング歴が再び彼を海へ誘った。プールでの2 年間の運動のあと沖縄の海へ入った。以来毎年1 回のダイビングだが、その年1 回を楽しみに機能を維持している。
 I ちゃんは今女子高生、脊髄性筋萎縮症で車いす、やや呼吸筋も弱い。中学の頃からお母さんの後押しでダイビングを始めた。3 年目にはライセンスもとった。病院の外来でのリハも続けられているが、痛がったり疲労感を訴えたりする。しかしダイビングでは生き生きとし、ダイビング後には歩行能力が改善するという。
 Y さん、去年ついに80 歳を超えた。脳梗塞で軽い歩行障害、構音障害、難聴に心機能障害もあるという。毎回主治医から心配されつつも、ダイビングで何かあってもいいと、すでに10 年以上潜り続けている。ダイビングを2~3 日やるとしっかり歩けるようになるので、元気になるためにダイビングに来ているという。
 I 君は沖縄に住む30 歳脳性麻痺、アテト-ゼ型で移動は電動車いす、構音障害のためコミュニケーションは最低限必要なことを何とか伝えられるくらい、食事をゆっくりとフォークとストローでとれる以外は介助を要する。毎年バリアフリーダイビングの大会に一人で参加し、ボランティアの24 時間介助で4 日間過ごす。もちろん全介助だがちゃんと潜って海中を楽しんでいる。楽しそうな笑顔、うれしそうな表情が介助の苦労を吹き飛ばし、反対に喜びに変えてくれる。
 H さんは事故で失明した。以前やりかけたダイビングの続きを始めた。見えないのになぜ潜るのか、素朴な疑問に、あの浮遊感がたまらなく、落下や衝突の恐怖からの解放、海の中の音がいいのだと教えてくれた。
 その他にも、脳卒中片麻痺、ポリオ、頸損四肢麻痺、脊損対麻痺、関節障害など様々な人が行っている。聴覚障害の人たちは水中でも手話で話すことができる。

 毎年総勢200 人規模で行われるバリアフリーダイビング全国大会は、健常者もどんな障害の方も一緒に潜ろうというコンセプトで、毎年6 月梅雨の明けた沖縄で行われ、すでに10 回を数えている。障害のある方にダイビングを提供してくれる所は複数あるが、この大会を主催する日本バリアフリーダイビング協会(http://www.e-jbda.com/)が最大手だろう。

 ダイビングには、海水の効用、自然との触れ合い、旅行の要素などメリットがたくさんある。確かにリスクもあり、我々リハ医には安全性への配慮にも尽力すべき使命があるが、それは健常者も同じ条件であり、参加者みんなが助け合うノーマライゼーションが実現していることの意義は大きい。

第2回リハビリテーション科専門医会学術集会報告

 2007 年12 月8 日と9 日、北海道大学学術交流会館で第2回リハビリテーション科専門医会学術集会が行われた。初日は午後1 時からの開始であったが、最近降った雪は融けており、比較的好天に恵まれた。2 日目は雪がちらつく天候ではあったが、200 名を超える参加者があり、両日とも会場は熱気に包まれ、活発な討論が行われた。平成19年4月から実施されたリハ料に関する診療報酬再改定の概要は、学会誌第44巻5号において、報告として掲載されましたが、それ以降この件につき事務連絡などによって明らかにされた内容をご報告いたします。

 1 日目はまず総会が行われ、議長には中馬孝容先生、副議長には高橋秀寿先生が選ばれた。システム委員会の進行状況について園田茂先生から説明がなされた。順調にいけば来年7 月にリリースされ、このシステムを専門医会も利用できるようになること、今後は中身が重要になることが報告された。リハ科専門医の需給に関するWGについては、佐伯覚先生から中間報告として本学術集会のパネルディスカッションで発表する予定であることが報告された。山田深特別委員から専門医名と施設名の公表をホームページ上で行っているが、引き続き公表に協力をお願いしたいことが述べられた。正門由久幹事長から専門医会幹事の選出手順の改正について提案され、審議の結果、現在の幹事の任期を2008 年12月9 日まで延長し、その後専門医会幹事選挙は2年ごとに専門医会学術集会開催時の総会で行うことが承認された。次に、本年度の現学術集会について生駒一憲副幹事長(代表世話人)から概要が述べられた後、第4回専門医会学術集会の代表世話人に朝貝芳美先生が選ばれ、2009 年10 月に諏訪で行いたいことが述べられた。続いて菊地尚久先生と出江紳一先生から2008年の日本リハ医学会学術集会(横浜)の時に専門医会として2日目に3 時間の枠があり企画を検討していることが述べられ、佐伯覚先生と池田聡先生から2008 年12 月6 日と7 日に福岡市都久志会館で行われる第3回学術集会について説明があった。専門医会の活動に関して、正門幹事長からリハ科専門医間の交流・情報交換のためシステム作りを提案し、これが発展してリハ医学会の事業となったことや学術集会の開催、専門医の質の向上、研究・調査、広報・啓発などの専門医会の事業について説明が行われた。これに対し会場から特に異議は出なかった。最後に、豊倉穣先生から第45 回日本リハ医学会学術集会の説明がなされた。また、国際委員会から国際リハ医学会(ISPRM)に関する会員意向調査への協力要請がきていることが述べられた。
 総会の後、「リハ科専門医の需給を考える」と題するパネルディスカッション(座長は佐伯先生)が行われた。近藤克則先生、渡部一郎先生、専門医会WG 委員(菅原英和先生、水野勝広先生、瀬田拓先生、吉田輝先生)から発表があり、医師不足が明らかなこと、リハ科専門医の必要性を示す必要があること、関連職種の大幅の増加が今後見込まれるが教育と質の向上が重要であること、リハ科専門医は約3,000~4,000 名が必要なこと、などが述べられ、活発な討論が行われた。このセッションは医療専門の新聞社から取材があり、注目度が高いテーマであることが窺えた。その後、松元秀次先生により「最新のリハ―痙縮のマネジメント」(座長は園田先生)、竹内直行先生により「最新のリハ―脳卒中と経頭蓋磁気刺激」(座長は出江先生)と題して教育講演が行われた。
 その後、北海道大学構内にあるエンレイソウにバスで移動し、意見交換会が開催された。これは専門医会としては発足後初めての懇親の場であった。生駒代表世話人、正門幹事長の挨拶の後、江藤文夫理事長からもご挨拶をいただいた。そしてご自身の著書2冊を参加者に進呈していただいた北海道地方会幹事の岡本五十雄先生により乾杯の発声が行われた。意見交換会では各新専門医から挨拶があった。最後に池田先生から第3回専門医会学術集会の説明と意見交換会閉会の挨拶があり、1 日目が終了した。

 2日目は「脳性麻痺の訓練治療のあり方―ガイドライン委員会の報告を踏まえて―」(座長は朝貝芳美先生)と題しシンポジウムが行われた。朝貝先生、岡川敏郎先生、近藤和泉先生、高橋秀寿先生が講演され、最新の脳性麻痺治療について討論が行われた。次に長坂誠先生により「最新のリハ―心血管疾患の電気刺激療法」(座長は菊地先生)と題して教育講演が行われた。最後に、安保雅博副幹事長が専門医会として閉会の辞を述べ、通常の学術集会は終了した。
 午後からは北海道大学病院で経頭蓋磁気刺激実技セミナーが開催された。これは専門医会の研修事業に位置付けられるもので、実技形式のセミナーは初めての試みである。これは注目されたようで、病院内の実際の検査室で行うため定員が12 名と少なかったこともあるが、受付開始日に定員に達する状況であった。約30 分間の経頭蓋磁気刺激についての講義の後、2 つの検査室に分かれ約2時間参加者が実技を体験した。このセミナーの終了をもって、全スケジュールが無事終了した。

 最後に、今後のリハ科専門医会学術集会をより実りあるものにするため、どのような形でもよいので是非参加者からのフィードバックを戴ければ幸いである。来年の専門医会学術集会は福岡での開催であるが、専門医会が名実ともにさらに発展し、今回以上に多数の参加者があることを願ってこの稿を終えたい。

 

経頭蓋磁気刺激実技セミナーの様子

REPORT:第31回日本高次脳機能障害学会(旧日本失語症学会)

横須賀共済病院リハビリテーション科 野々垣 学

 第31 回日本高次脳機能障害学会は、2007 年11 月22~23 日、和歌山県立医科大学脳神経外科 板倉徹会長のもと、和歌山市にて開催されました。

 テーマは「高次脳機能、局在を問う」であり、会長のご専門である脳腫瘍の術中覚醒下電気刺激での機能局在の探索について、術中の様子を動画を用いてわかりやすく解説いただきました。シンポジウム「高次脳機能の局在とネットワーク」で会長自らがシンポジストとして参加され、言語野周囲および頭頂葉での機能局在について講義されました。

 特別講演としてSydney 大学のRobyn L Tate 氏による“Neuropsychological and social rehabilitation after traumatic brain injury” についての講演がありました。オーストラリアでの脳外傷地域リハシステムの状況や、25 年にわたる脳外傷患者の追跡調査、脳障害の心理学的データベースのPsycBITE など多岐にわたる内容を紹介していただきました。

 今年度より本学会参加が、リハ医学会の生涯教育制度の認定単位に認められるようになりました。このため学会参加で10 単位、教育講演の種村純先生による「遂行機能障害の臨床」、豊倉穣先生による「『注意』障害の臨床」で各10 単位、合計で30 単位取得可能な学会となりました。

 日本失語症学会より日本高次脳機能障害学会と名称変更して、4 年が経過しましたが、小児・発達のセッションができたり、視覚認知のセッションに多数の聴衆が集まったりと、学会内での興味をもたれる分野の幅が広がっているようです。今回は一般演題171演題を集め、学会期間中、シンポジウム2 題(機能局在とネットワーク・高次脳機能リハ最前線)、教育講演7演題(前述の2 演題と記憶・半側空間無視・認知症他)、カレントスピーチ(高次脳機能障害の摂食嚥下・感情と社会性の認知神経科学)など、幅広い知識を得られる学会という意味で、発表するだけでなく聴講に行くだけでも価値ある学会という印象を受けました。

 今年は11 月19~20 日(水・木)愛媛の松山市で開催される予定です。

REPORT:中部・東海地方会主催 市民公開講座

 2007 年12 月1 日、ヒルトン名古屋にて日本リハ医学会中部・東海地方会主催で市民公開講座が開かれました。テーマは「リハビリテーションの今」です。約320 人と多くの一般市民の方から参加をいただき、会場は満員に近い状況でした。今回の市民講座については人から聞いたり、新聞やポスターで知った方が多く、市民のリハに対する関心の高さを改めて感じました。

 公開講座前半は初台リハ病院理事長の石川 誠先生と茨城県立健康プラザ管理者大田仁史先生からの講演を企画しました。両先生とも一般の方向けにわかりやすく講演いただき非常に好評でした。石川先生からは「回復期リハについて」というタイトルで廃用症候群と早期リハの大切さ、日本独特のシステムである回復期リハ制度と現在の医療政策についてのお話があり、最後に質の高い回復期リハ医療が望まれるとのお話でした。大田先生からは「最 後まで人間らしくありたい~終末期リハ~」というタイトルで尊厳とは何か?反対の言葉である虐待からみると尊厳がよくわかる、社会参加とは人と会うこと、座ることはトイレに行けること、立つことは外出できること、など尊厳あるケアについてのお話でした。

 休憩を挟んでから「患者さんに聴く摂食・嚥下リハ体験」として藤田保健衛生大学馬場 尊教授から摂食・嚥下リハの概略を解説後、藤田保健衛生大学で実際に摂食・嚥下リハを受けられた3 名の脳幹障害の患者さんと家族の方に体験談を語っていただきました。訓練途中のペースト食はまずかったが、おかゆが食べられるようになって嬉しかったとの声が印象的でした。会場からも患者さんの話が直接聞けて良かったとの声が複数聞かれました。
 一般市民のリハに対する高いニーズに応えられるよう、今後もこのような公開講座が全国各地で定期的に行われることを期待しています。

REPORT:第34回国際福祉機器展

 広報委員会 大高洋平

 第34 回国際福祉機器展が2007年10月3日から3日間、東京ビッグサイトで開催されました。日本リハ医学会は、広報活動の一環として、2003年より展示ブースを出展し、リハ医療、リハ医学会の活動を一般の方々に広く知っていただくことを主目的として企画、展示を行ってまいりました。2007 年も前年同様に、2 ブースを利用してのパネル展示を行い、「リハ科専門医一覧・リハ科医が関わる福祉機器開発」「主な疾患のリハビリテーション(小冊子)」等を配布し、リハ医療を広く市民の方に広報いたしました。
※国際福祉機器展に関する詳しい情報は、国際福祉機器展のweb site : http://www.hcr.or.jp/ でご覧ください。
※展示会にご協力いただいた以下の会員の先生方に深く御礼申し上げます。
藤野宏紀先生(医療法人鉄友会宇野病院)、田中芳幸先生(川崎医科大学リハ医学教室)、山中 崇先生(川崎医科大学リハ医学教室)、横山通夫先生(藤田保健衛生大学医学部リハ医学講座)、青山朋樹先生(京都大学再生医学研究所)

国際福祉機器展に参加して

京都大学再生医科学研究所 青山朋樹

 東京ビッグサイトの大きさ、出展機器の豊富さ、これも大きな驚きでした。しかし一番印象に残ったのは参加している方々の“笑顔” です。これまで装具の処方や福祉制度の説明の際には、“介護” という見えない負担への重圧からか、患者さん本人、家族の笑顔をあまり見たことはありませんでした。それが参加されている方(患者さん、付添いの方、行政からの参加者、学生さん)全てが笑顔で会場内を巡り、機器を手に取り、説明に耳を傾けていました。これは新しく開発されている装具や機器への“希望”であり、改良を重ねられて使いやすくなった器具への“期待”から来るものではないでしょうか。これらの“希望” や“期待” は今回私が参加させていただいた日本リハ 医学会のブースにも“要望” という形で数多くよせられました。その要望は荒唐無稽なものでなく、私たちが少しだけ動き回るだけで実現できるものの ように思われました。リハのめざすものが失われた機能の回復だけでなく、コーピングスキルの獲得であることを再認識し、自分がどれだけ多くの方々に期待されているかを実感した貴重な体験になりました。

REPORT:第42回日本脊髄障害医学会

広島大学大学院保健学研究科保健学専攻 心身機能生活制御科学講座 飛松好子

 第42回日本脊髄障害医学会が2007 年11 月9、10 日に、埼玉県さいたま市の大宮ソニックシティで、埼玉医科大学総合医療センターリハ科教授陶山哲夫大会長の下で開催された。

 この学会は脊髄障害を理解し、その治療について研究し、その成果を共有するために複数の科が集うユニークな学会である。今回もリハ科、整形外科、脳神経外科、泌尿器科の医師や、その他セラピスト、看護師等が幅広く参加した。

 この学会の趣旨と、これまで、整形外科領域、リハ領域から、幅広く脊髄損傷に関わり、また障害者スポーツを長きにわたって推進してきた陶山哲夫教授の想いが貫かれた内容の濃い学会であった。

 招待講演は、海外から3 人の専門家が招かれ講演した。British Columbia 大学Peter C. Wing 教授はバンクーバーにおける脊髄損傷の発生とその予防について日本のデータを織り交ぜながら予防のstrategy について詳しく説明した。日本脊髄障害医学会は脊髄損傷予防委員会を設置しており、会場からは質問がいくつかあった。Wing 教授の講演は、事故に焦点を置いたものであったが、討論の中から、カナダにおいても高齢者の脊髄損傷者の占める 割合が高く、その予防は日本と同様重要な課題であることが明らかになった。シンポジウムは4 題あり、リハと支援機器、フィットネスと社会的統合、挙児、リハ治療の現況についての4題であり、科を超えて関心のあるところであった。また、特別セミナーとして「不全脊髄損傷者に対する歩行練習のUp to Date」がもたれ、工学系から山本澄子国際医療福祉大学大学院教授が、理学療法士として高倉保幸埼玉医科大学理学療法学科教授が講演を行った。一般演題も多く、また多岐にわたっており、4 会場で同時進行するので、参加者は何を聴くか悩ましいところであった。

 今年は、北海道大学医学部脳神経外科教授岩崎喜信教授の主催で、札幌の地で開催される。

REPORT:第23回日本義肢装具学会

浜松医科大学附属病院 リハビリテーション科 美津島 隆

 今回、2007 年11 月17、18 日の両日、私は宍道湖畔にたたずむ風光明媚な城下町松江市で開かれた第23 回日本義肢装具学会に参加した。開催日が初冬でもあり、日本海側特有の変わりやすい天候で肌寒かったが、天候とは対照的に、各会場内の熱気は非常に 高かった。この学会は、医師、義肢装具士、理学療法士、作業療法士など多職種が集う学会でもあるためか、地方都市の開催ではありながら、参加者数も多く非常に盛況であった。

 この都市で、全国規模の学会が開かれることはめったにないとのことであるが、会場のくにびきメッセは、全国学会を開催するのに十分な規模と設備をもっていた。機器展示を含め、4会場で行われたのだが、すべて一階で行われ、しかも各会場が隣接しており、会場内の移動は非常に便利で、興味ある演題を時間のロスなく視聴できた。

 学会の特別講演、シンポジウム、口演も多岐にわたっており、今大会のテーマである「夢を創る」にふさわしい内容であった。特別講演では、武智秀夫先生が、島根県が生んだ偉人である森鴎外と彼が留学したドイツの医学史の特に義肢についての長年にわたる研究成果を「ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲンの義手と森鴎外」としてご講演されたのが印象的で、大都市での学会では聴けないような、いかにも地方の特色を生かした内容であった。またマレーシアのザリハ・オマール先生は、女性ならではの、豊かな感性を持って、今後の義肢装具の将来性についてご講演された。

 中村俊郎大会長の講演も素晴らしく、義肢装具と文化との関連を語られたお話は、義足を通した世界との交流で義肢装具の重要さ、奥の深さを伝えていこうとする内容で、スケールが大きく、いかにも、一地方都市から世界レベルの技術を発信した企業のトップにふさわしいものであった。

 最新の義肢装具の技術、知見を見聞したのちは、テレビでも放映され人気になった魚「のどぐろ」に舌鼓を打ちながら山陰の夜は更けていくのであった。

REPORT:第37回日本臨床神経生理学会

甲南女子大学 看護リハビリテーション学部 阿部和夫

 第37 回日本臨床神経生理学会・学術集会が2007 年11 月19~23 日に、栃木県立総合文化センター(宇都宮)で、獨協医科大学神経内科教授平田幸一大会長の下で開催された。

 日本臨床神経生理学会は、脳波、筋電図や神経伝導検査などリハ科、神経内科、精神科、整形外科の医師および検査技士を対象とした学会である。その一方で、検査手技を会得するのに時間が必要なことから、“職人” 的あるいは“名人芸” 的な神経検査を行う、どちらかというと少数の専門家のための学会という印象があった。しかし、最近の神経画像の進歩および臨床神経検査のマッピング技術などの進歩あるいはコンピュータを利用してのコヒーレンス解析や空間フィルターの開発などにより神経活動の局在診断を行う技術の進歩により、神経活動に興味を持つより多くの医師、技士(師)あるいは工学者にも開かれた学会に変貌しつつある。地方都市で開かれたにもかかわらず多数の参加者があったこともこうし た事情を反映している。 36 の教育講演、23 のシンポジウム、ワークショップ、ハンズオンセミナー、など一般演題以外の講演も数多くあり、専門家はもちろん、若い研究者にも魅力的な題目が多く見受けられ、「これからの医学・医療をリードする神経生理学」というメインテーマに恥じない内容を伴った学会でもあった。特に、柴崎京大名誉教授の「臨床神経生理学:最近の進歩と将来の展望」は、豊富な治験とこれからの臨床神経生理学の発展に関する有用な示唆に富んだ講演であった。また、特別講演の呉香川大学教授による「認知神経科学における医学と工学の接点?複合医工学」は、新しい医学と工学の連携のあり方を模索する有意義で刺激的な講演であった。もちろん一般演題でもリハ医学を始めとする種々の分野での臨床神経生理学的研究が数多く発表されていた。

 臨床神経生理学的検査は、リハ医にとって、患者の病態を把握するのと同時に、リハの効果を判定するための有用な手段であり、今後は、さらに数多くのリハ医が、本学術集会に参加することを期待する。

質問箱

筋力増強訓練の中でのPREの位置づけ:筋力増強訓練の中でPREという方法をよく目にしますが実際行われているのは見たことがありません。教科書で読んでも理解できないのですが、実際どのように行うのでしょうか。教えてください。

A 筋力増強訓練としてのPRE(Progressive Resistive Exercise)は徐々に負荷量を増やして等張性収縮を繰り返し、筋力増強を図るものです。この手法は1945年にDelorme が発表したものが有名で、彼は外傷などで 萎縮した筋肉の回復を図るには、筋力、持久力、スピード、協調性を分けて考えるべきで、特に筋力(power)と持久力(endurance)は訓練法が異なるということを強調しています。すなわち高負荷、低頻度の運動で筋力が、低負荷、高頻度の運動で持久力が得られるという考えを主張しました。この考え方は現在では一般に広く認められています。また彼によれば、まず、筋力を回復させ、ほぼ正常筋力となった後で持久力を強化すべきとしています。

 具体的な訓練の方法は、まず10RM(repetition maximum 、10 回は繰り返しできるが、それ以上の回数はできない負荷量の運動、たとえば懸垂が10回はできるが11 回は無理ならその負荷が10RM)を求めます。初回は10RM を求めるため、問題なく10 回筋収縮をさせることが可能な低い負荷量として10 回筋収縮を行った後、少しずつ負荷を増やしていって、それぞれ10 回筋収縮を 行い、10 回以上収縮不能なところでやめて、10RM を決定します。その週はこの10RM の負荷を最大負荷量として、翌日はたとえば10RM が12 kg であったなら、5 kgの負荷から開始して10 回、次に6 kg で10 回、7 kg で10 回と増やしていって、12 kg で10 回収縮運動を行います。全部で80 回筋収縮運動を行ったことになり、これを1 日の運動量とします。この1 日に行う収縮運動の回数は70 から100 回の間になるように設定します。各負荷での運動の間には休息を入れて、全運動時間は30分程度とし、疲労を起こさないようにします。週に5 日運動を行い、2 日は休みます。5 日目に筋力を測定し、1RM、10RM を求めます。次の週はこのとき得られた10RM を基準に負荷量を調節(増加)して5 日間同じ負荷で運動を行うようにします。

 現在、実際に行われている筋力強化法は高負荷という点では、Delorme の考え方に基づいていますが、実際の負荷量の調節などはさまざまな工夫が行われており、また、10RM より強い負荷を与えて筋力強化を図る方法も行われています。Delorme のように正確に筋力を測定し、負荷量を細かく設定し漸増することの意義は必ずしも認 められていないため、質問にあるようにPRE に従った筋力増強法という具体的な訓練法を目にすることがないと感じられるものと思われます。しかしPREは多くの筋力強化法の基本となった考え方といえるでしょう。

文献 Delorme TL : Restoration of muscle power by heavyresistance exercise. J Bone Joint Surg [Am] 1945; 27: 645-667

(評価・用語委員会 森田定雄)

医局だより:関西医科大学リハビリテーション科

 関西医科大学リハビリテーション科は、1999年4月に附属病院( 現附属滝井病院)の院内再編時に整形外科理学・作業療法室から総合リハビリテーションセンターとなった際に標榜されたのが始まりです。現在、教授1 名、講師1 名、助教3 名が在籍していて、この5 名で附属枚方病院と附属滝井病院を運営しています。両附属病院とも診療科としてスタートしましたが、附属枚方病院は2006年6 月に、附属滝井病院は2007 年11 月にそれぞれ診療部に昇格しました。枚方病院は吉田清和教授はじめ3名、滝井病院は私を含めて2名の配置となっています。附属滝井病院と附属枚方病院との移動には乗り継ぎをふくめて電車で40分かかりますが、テレビ電話を使って医局会や勉強会などを行い、両病院の交流を図っています。

 吉田教授は、特に卒前・卒後教育に力を注いでいます。週4 回の早朝勉強会(QandA、英文抄録抄読会、輪読会、リハ系統講義)を開催されています。勿論、医局の抄読会、症例検討会やカンファレンスなども別に行っています。クリニカルクラークシップでは、リハ医の指導のもとに学生が患者診察・症例プレゼンテーション・カルテ記載を行うようにして、積極的に臨床の場面に参加させるようにしています。

 診療の特徴としては、附属枚方病院では嚥下訓練を行っている患者をリハ医・言語療法士・栄養士・看護師(院内Nutrition Support Team の嚥下コアナース)で回診する“リハ嚥下回診” を週1 回行っています。ベッドサイドに嚥下に関する関連職種が集まって、嚥下機能の評価、経過、訓練内容だけでなく患者の嗜好や食材、口腔ケアなどについても相談しています。低栄養の改善、誤嚥性肺炎の予防に効果があり、院内でも好評です。附属滝井病院では義肢装具療法、急性期呼吸リハ、神経難病患者への早期介入に取り組んでいます。新型装具、排痰装置や意思伝達装置を積極的に導入しています。
臨床研究は、急性期呼吸理学療法の客観的評価(呼吸音の音響解析)、遠隔リハシステムの開発、よりリアリティーのある義足の外装を産学協同で行っています。今後もアイディアあふれた研究を展開したいと考えています。

 関西医大リハ科はまだまだ発展途上ですが、その中で特色のあるリハが確立できるように各人が努力しています。スタッフとして当科へ参加希望の方、当科での初期臨床研修・専門(後期)研修に興味のある方は是非ご連絡ください。

(菅 俊光)

関西医科大学附属滝井病院リハビリテーション科
〒570-8507 大阪府守口市文園町10-15
Tel 06-6992-1001(代表)、Fax 06-6993-9562
E-mail : sugat@hirakata.kmu.ac.jp
URL : http://www2.kmu.ac.jp/takii

広報委員会より

 リハニュース36 号をお届けします。今回は、リハビリテーションと電子カルテについて、浜松医大の木村教授にご執筆いただきました。筆者が15年前に米国Mayo Clinic に居たときに、彼我の違いを痛感したのは、カルテについてでした。Mayo Clinicでは、診察の際に口述で所見を述べそのテープを、即時に、秘書が文章に起こし、医師が確認をしてから、原本、医師、患者に書類を渡していました。患者は、カルテ(紙)を受診する医療機関に渡すことで自分の病態を詳しくもれなく新 たな主治医に知らせることができました。患者にとっても医師にとっても有用なシステムと感じました。翻って、わが国では、相変わらず秘書は居らず、「電子カルテ」が医療現場に導入されてかなりの時日が経ちましたが、データ形式の不一致 などを別としても、診療する医師の仕事量の増加、カルテを持ち運ぶ患者の利便性の問題など医療現場の医師と患者に対する有用性が、いまだに見えてきていません。患者の紹介を頻繁に行いかつ受けるリハビリテーションの現場では、「電子カルテ」が医師と患者により利益を与える手段になることへの期待は大きいものと考えます。その意味で、静岡方式の発案者である木村教授の記事を参考にしていただきたいと思います。

(阿部 和夫)