リハ医学 39-10 掲載 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
身体障害者福祉法による補装具交付の判定に関する調査 |
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はじめに身体障害者福祉法(以下,身障法)による補装具給付については,補装具の種目により事務的な取扱い方法や身体障害者更生相談所(以下,更生相談所)による判定の必要性および判定方法が異なり,それらに関する指針が厚生省(現厚生労働省)により出されてきた.最近では平成12年と13年に補装具給付事務の取扱いに関する指針1)ならびにその改正2)がなされた.これらの指針は地方自治法の規定に基づく技術的助言とされているが,各地方自治体は補装具交付に際して,基本的にこれらの指針に沿った取扱いをするものと推測される.これらの指針では更生相談所で交付の判定をすべき補装具の種目を具体的に挙げ,直接判定だけでなく,種目によっては医師の意見書等による判定(いわゆる文書判定)を拡大する方向性を打ち出しているのが特徴である.この意見書を作成できる医師の要件について,以前は明確なものがなかったが,平成13年の改正2)では「更生相談所長が選定した専門医(身障法第15条第1項に基づく指定医または同法第19条の2第1項に基づく更生医療指定機関において当該医療を主として担当する医師の中から関係医学会等の意見に基づいて選定)または公的機関が実施する補装具判定医師研修を修了した者等十分な専門知識,技能および経験を有する者とする.」と明記された. 平成12年4月から介護保険法が施行され,補装具の中でオーダーメイドを除く車いす,電動車いす,歩行器および歩行補助つえは介護保険のレンタル対象品目に入れられた.これにより更生相談所における補装具の判定にも大きな変化が生じる結果となった.また,同時期に地方分権一括法の施行により補装具交付の判定や事務手続きが変更され,基準外補装具交付の決定も各自治体に委ねられることとなった. リハビリテーション(以下,リハ)医療に携わる医師にとって,これら補装具の交付に関して意見書や処方箋を作成したり,更生相談所から交付判定や適合判定などの医学的判断を委嘱される機会が今後増えていくことが予想される.そこで,身障法による補装具交付判定の現状や介護保険法との関係を把握し,補装具に関する医師の役割を会員に再認識してもらう目的で,更生相談所を対象に調査を行ったので報告する. 対象と方法全国59の都道府県および政令指定都市に設置されている68カ所の更生相談所にアンケート用紙を郵送した.平成13年11月に発送し,平成14年3月までに回収した.アンケート内容は補装具の種目別判定実施件数,文書判定の意見書の様式と作成できる医師の要件,意見書の記載上の問題点,基準外補装具の判定,要介護または要支援と認定された障害者に対する車いすの判定に関すること,などである.なお,今回対象とした補装具は交付に際し更生相談所の判定を要するもの1)とした.すなわち義肢,装具,座位保持装置,車いす(レディメイドの手押し型を除く),電動車いす,頭部保護帽(オーダーメイド),歩行器,眼鏡(色眼鏡,矯正眼鏡,コンタクトレンズを除く)および補聴器である. 結 果アンケートの回収率は100%であった.同一自治体で2カ所以上の更生相談所がある場合にはそれぞれに用紙を送付したが,県単位で統一したデータを返送してきたものは1カ所として集計し,そうでないところは別個のものとして集計した.そのため回答数としては64カ所となった.1. 種目別・年度別判定件数 表1に平成11年度と12年度それぞれの補装具種目別判定件数(種目別件数が不明の2カ所を除いた全国合計)とその割合を示した.最右欄は各種目の11年度に対する12年度の判定件数の比率である.11年度は全国で約12万件あり,車いすが全体の半数を占め,次いで補聴器,装具の順に多かった.12年度は11年度より全件数で3万8千件,率にして32%減少していた.その大部分が車いすの減少であり,種目別件数では補聴器と車いすがほぼ同数となっていた.12年度の車いすの件数は11年度の41%,電動車いすは同66%,歩行器は同33%と,3種目の減少が顕著だった.これらはいずれも介護保険法のレンタル品目である.その他の種目には両年度で大きな変化はみられなかった.
2. 判定方法―直接判定と文書判定― 表2は平成12年度の判定実績と文書判定についての質問から分類した判定方法別の更生相談所数の内訳と,種目別の全判定件数(全国の合計)に占める直接判定件数の割合である.すべての種目について直接判定と文書判定を併用している更生相談所がもっとも多いことがわかる.件数でみると,直接判定の割合が高いのは電動車いすの82%,次いで義肢の65%であった.この2つ以外の種目は文書判定件数の方が直接判定件数より多かった.
指針(資料 1)により直接判定の対象としている種目のうち,採型が必要でより個別性の高い義肢,装具および座位保持装置に限ってみると,ほぼすべて直接判定を行っている相談所は12カ所,反対にほぼすべて文書判定としているのも12カ所であった.義肢は殻構造のみ文書判定で骨格構造は直接判定と分けているところが11カ所あった.一方,文書判定でよいとされる歩行器,眼鏡および補聴器についてもほぼすべて直接判定としている更生相談所が数カ所みられた.補聴器は箱型,耳掛型のみ文書判定で,それ以外は直接判定としているところが6カ所であった. なお,直接判定の巡回相談において在宅判定を実施しているところが3カ所あり,注目に値する. 3. 文書判定について 文書判定を採用している更生相談所数の割合は車いす,歩行器,頭部保護帽,眼鏡および補聴器については90%以上,義肢,装具および座位保持装置については80%前後,電動車いすは60%であった.文書判定に用いる医師の意見書の様式は,種目によって変えているところもあるがその数は少なく,それぞれの自治体の独自様式が70〜80%と大部分を占め,指針(資料 1,2)にある様式例第4号または第6号を準用しているのは約20%,とくに様式を定めていないところも数カ所あった. 意見書を作成できる医師の要件を定めているのは37カ所であり,定めていないところが27カ所であった.要件としては,ほとんどが身障法第15条指定医または第19条の更生医療指定機関における担当医師であった.その他に,補装具適合判定医師研修会修了者,補聴器適合判定医師研修会修了者,日本リハ医学会認定臨床医,整形外科学会専門医等が挙げられていた. 医師が作成した意見書の記載項目や内容にみられる問題点として,障害の状況と処方内容が合っていないこと,具体的処方内容の記載不足(補装具に関する医師の知識や法の基準の理解不足),とくに義肢と座位保持装置は業者主導の意見書・見積書が多いこと,要介護者の車いすを根拠不明のままオーダーメイドとして判定依頼してくること,などの指摘が多数あった.さらに,医師への補装具に関する教育システムが必要,処方に必要な内容を医師がもれなく記入できる様式にするべき,などの意見もみられた. 今後の直接判定と文書判定の割合については,現状を維持していきたいとの回答が全体の7割で,それ以外は直接判定を増やしたいとするものと文書判定を増やしたいとするものがほぼ半数ずつであった.現在の判定業務に占める直接判定と文書判定の割合の大小との関係はとくに認められなかった. 4. 基準外補装具の交付判定 基準外補装具の交付に係る判定を実施する体制について,調査時点では大部分の更生相談所が未整備の状態であったが(表3),これについては判定依頼の都度,更生相談所で直接判定するか,所内での協議か判定会議で判定するという回答が多かった.
件数では12年度の1年間に600件以上の判定が行われており,車いすおよび電動車いすに関するものが過半数であった(表4).11年度までは基準外補装具の交付が厚生大臣協議により行われており年間約300件強であったが,12年度は判定件数が倍増していた.
5. 要介護または要支援の障害者の車いす判定について 介護保険法により要介護または要支援と認定された障害者に対する車いすの判定依頼への対応について表5に示した.原則としてオーダーメイドの判定依頼には応じるがレディメイドの依頼は断るという回答が多かった.また,オーダーメイドの依頼でもなるべくレディメイドとして介護保険でレンタルするよう助言しているという回答が3割を超えていた.
考 察平成12年度は11年度に比較して,車いす,電動車いすおよび歩行器の判定件数が激減していた.これらはオーダーメイドを除いていずれも介護保険におけるレンタル対象種目となり,身障法による交付に優先することになったためである.要介護または要支援の障害者の車いすおよび電動車いすに係る判定についての回答内容からみてもその変化は明らかである.要介護者または要支援者については,身障法での車いすの交付判定を受けること自体が困難になってきているが,一方,障害者に対しオーダーメイドの車いすを個別に作製する必要があると判断される場合には,身障法の判定に基づき交付して差し支えないことになっている2).したがって,リハ科の担当医として個々の車いすの処方を検討する際には,既製品でよいのか,オーダーメイドのものを作製すべきか,十分に考慮したうえで決定する必要がある.さらに,オーダーメイドで作製すべきと判断したら,その必要性を行政の担当者に納得させるような意見書を作成する義務があることも忘れてはならない.なお,厚生労働省では今後,身障法と介護保険法での車いす選定に係るマニュアル作りを含めて,地方自治体や介護の現場での対応改善を図っていく方針とのことである.判定方法では直接と文書の両方を行っているところが概ね過半数を占めた.それぞれの自治体によって事情は異なると考えられるが,申請者の利便性や事務の簡素化を考慮して文書判定を取り入れているところが多いものと推測される.一方で,原則として直接判定を行うべき種目でも,ほぼすべて文書判定のみで行われているところが2割程度認められる.さらに,意見書を作成できる医師の要件を定めていないところが4割もあるのは問題であろう.意見書に多く見られる問題点として指摘されている内容からみても,文書判定の意見書を作成する医師には一定の資格や技術水準が求められるべきと考える. 平成13年の指針2)では,更生相談所の医学的判定を要する補装具として,直接判定の対象を義肢,装具,座位保持装置,車いす(オーダーメイド)および電動車いすとし,弱視眼鏡,補聴器,車いす(レディメイド)および頭部保護帽(オーダーメイド)については文書判定でよいとしている.また,これら以外の補装具については,更生相談所の医学的判定を要さず市町村が判断するものとしている.この指針の中で,重度の障害をもつ者または遠隔地に住む者等の利便を考慮する必要があるときは,更生相談所長が選定した専門医に医学的判断を委嘱することができるとしている.また,意見書を作成する医師は,上記に準じて選定した専門医または公的機関が実施する補装具判定医師研修を修了した者等十分な専門知識,技能および経験を有するものとするとしている.今後はさらにきめ細かな判定方法の選択と適用が各自治体に求められるようになるであろう.それに伴い,今後リハ科の医師は補装具の判定を委嘱されたり,意見書を作成する機会が増えると予想される.これらの医師を確保するための方策を国や地方自治体が考えることは勿論であるが,日本リハ医学会としても所属医師の補装具に関する知識や技術水準を改善し,それを保証する具体策を講じる必要があると思われる. アンケートにご協力いただいた全国の身体障害者更生相談所に深謝します. 資 料
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