●報 告● | 日本リハビリテーション医学会 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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リハビリテーション患者の治療効果と診療報酬の実態調査 |
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日本リハビリテーション医学会 社会保険等委員会 担当理事 石田 暉 委 員 長 本田 哲三 担当委員 岡川 敏郎 |
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我が国の医療においてEBM(evidence-based medicine)が原則となるにしたがい,診療報酬改定要望でも,客観的根拠が求められるようになっているのは周知のとおりである.そこで日本リハビリテーション医学会社会保険等委員会は全国調査を実施し,リハビリテーション(以下,リハ)診療に必要な改定要望と治療効果についての関連因子を集計・分析したので報告する. | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
I . 目 的診療報酬改定への要望の根拠として,![]() ![]() |
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II. 調査対象と方法調査票は,「A. 病院概要調査票」「B. 患者調査票(![]() ![]() ![]() 対象は,日本リハ医学会に所属するリハ科専門医 790 名と,インターネット上のホームページなどで住所を入手し得た回復期リハ病棟のうち専門医の勤務していない 111 病院との計 901 通を郵送した.回答数は,A. 病院概要調査票 108 票,B. 患者調査票 1,446 票(78病院),C. 専門医・専従医調査票 252 票(回収率 28.0%)であった. |
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III. 基礎分析結果1. 専門医・専従医調査次回の診療報酬改定において「訓練の上限の撤廃もしくは引き上げ」には 81.0%,「チーム医療の評価をもっと行うべき」には 82.5% の人が,これらを求めることに同意していた.自由記述では,回復期リハ病棟の対象疾患を拡大し,一方でスタッフ配置基準を強化してほしい,リハ関連職種を評価して診療報酬を設定してほしい,早期リハ加算できる対象疾患を拡大してほしい,訓練時間の上限を緩和してほしい,総合実施計画書が脳卒中以外で書式がそぐわないなど8項目に分類整理できるものが多数寄せられた. 2. 病院概要調査 今回の病院概要調査に回答した病院の概要は,病院全体の病床数(中央値)は 264 床で専門医または回復期リハ病棟専従医が担当する病床数(中央値)は50床,その平均在院日数の最頻値は61〜90日であった.理学療法士(PT)・作業療法士(OT)の訓練業務の時間で見ると訓練室内が7割,病棟など訓練室以外が3割であり,土曜日にPT・OTが勤務している病院は4割を超え,日曜・祝日・早朝・夜間のいずれかを含めるとおよそ5割の病院で平日外に勤務体制をとっている.診療報酬の上限を超える訓練を実施している病院は4割を占め,患者の自主・自己訓練を実施している病院は6割にも上っていた. 3. 患者調査 分析対象患者は,1,446 例(平均年齢 66.0 歳)で,男/女,リハ医の関与の仕方が主治医/対診(コンサルタント)医ともにほぼ半数ずつであった.発症後入院病日の平均は81.6日(最頻値は31〜60日),平均入院期間は 74.9 日(最頻値は 30〜59 日),主病名では半数が脳卒中,入院時Barthel index(100 点満点)の平均値 50.4,退院時Barthel index平均値は 72.4,自宅退院率は7割であった. リハプログラムでは,リハ初日の発症後病日は平均 55.6 日,診療報酬の上限を超える療法士(PT・OT)による訓練(以下,上限を超える訓練)の実施率2割,患者の自主・自己訓練実施率5割弱,MSW(医療ソーシャルワーカー)の関与ありが5割強であった. 平日1日あたりの平均訓練量では,診療報酬を請求した訓練量でみるとPTで 1.2 単位,OTで0.8単位,ST(言語聴覚士)で0.2単位,PT+OT+上限を超える訓練+患者による自主・自己訓練量では,2.8単位であった.訓練量が多い群には,主病名が脳卒中,病棟種別が回復期リハ病棟,発症後入院病日が15〜60日,リハ医が主治医として関与,入院時Barthel indexが55〜80点などの群などに多かった. 1日あたりのADL改善率が著しく高かったのは,主病名が整形外科疾患と廃用症候群,入院期間が 30 日未満,発症からリハ初日までが短い群であった. 1日あたりの訓練量とADL改善率の関係では,訓練量が少ない群にADL悪化と不変が多く,訓練量が多い群に中等度改善が多かった.一方,1日あたりBarthel indexで0.6以上と著しく改善する群には,かえって訓練量の少ない群が多く,訓練をしなくても自然回復する患者群が存在することを示唆していた.1日あたりの訓練量にもADL改善率にも多くの因子が関連しているので,両者の関係を分析するには,それら交絡因子の影響を考慮すべきことが確認された(表). |
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IV. 1日あたり訓練量とADL改善率の関連についての追加分析交絡因子の影響をコントロールした上でも,訓練量が多いほどADL改善率(1日あたり)が高くなるか否かを明らかにするために,明らかに患者像の異なる入院期間が30日未満と180日以上の者を除く 1,059 名を対象に,以下の追加分析を行った.まず,クロス集計から,訓練量とADL改善率との関係を分析するためには,「主病名」「発症後入院病日」「発症からリハ初日までの日数(リハ初日発症病後病日)」「入院時Barthel index」「入院期間」の影響を考慮すべきであることが確認された. これらの因子をコントロールした後にも,訓練量とADL改善率との間に正の相関が見られるか否かを明らかにするために,これらの因子をモデルに取り込んだ重回帰分析を行った.まず主病名により,「脳卒中」(550 名)と「非脳卒中」(498 名)に分けた後,1日あたりのADL改善率を従属変数に,説明変数として入院時Barthel Index得点,リハ初日発症後病日,入院期間,平日1日あたりの訓練量を投入した. その結果,「脳卒中」においては,訓練量の係数は,訓練量が増えるほどADL改善率が大きくなることを意味する正の値であった.発症後リハ初日までの日数と入院期間は,共に負の係数であり,これらが長くなるほど,1日あたりの改善率が低下することを示していた.(調整済みR 2=0.317,p<0.001,投入した変数の係数はすべて有意).一方,「非脳卒中」については,1日あたり訓練量は有意な予測力を示さなかった.他の3つの変数については,脳卒中と同様な結果を示していた. 以上の検討から,脳卒中患者においては,入院時 Barthel Index,リハ初日の発症後病日(つまりリハ開始の遅れ),入院期間の因子について,同時にモデル投入することでコントロールしても,1日あたりの訓練量が増えると1日あたりのADL改善率が大きくなる関係が見られることが示された. 1日あたり訓練の上限を引き上げることによる効果の推計 重回帰分析から得られた有意な予測力を持つモデル式を用いて,診療報酬を改定し1日あたりの訓練量の上限が引き上げられた場合に,期待される機能回復など3つの推計を行った. (1) 推計A:入院期間を固定し,ADL得点の向上効果を推計 (2) 推計B:同じADL得点に到達できる入院期間の短縮日数を推計 (3) 推計C:在院日数短縮による医療費節減効果を推計 その結果,PT・OT1人あたり18単位を21単位に引き上げ,訓練量が 1.17 倍になると,典型な脳卒中患者の場合で以下のように推計された. ・推計A:入院期間が同じなら,退院時のADL得点の改善度が現状の6%増しに向上する. ・推計B:同じADL得点に現状の 89.3 日よりも 4.8 日短い 84.5 日の入院期間で到達できる. ・推計C:医療費節減額を費用増加額が上回り,患者1人1入院あたり 38,440 円の費用増加となる. この費用は,ADL自立度を高め,QOLを高めるためのものとしてとらえることが必要であろう.また,医療保険の費用は増加するが,一部の者では自立度が上がることで要介護度は下がることが期待できるので,介護保険給付は抑制できることも考慮する必要がある. |
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V. 診療報酬改定への提言以上の実態調査と分析結果から,何らかの根拠が得られた診療報酬改定への要望事項として以下のような点が提言できる.(1) 理学療法・作業療法・言語聴覚療法の1日あたり訓練量の上限を引き上げること (2) 回復期リハ病棟の対象疾患・患者の基準を見直すこと (3) リハ実施計画書の書式を改定し,必須項目と修正してよい項目を定め,診療実態に合わせた修正を可能にすること (4) 回復期リハ病棟に入院当初3週間に限り出来高払いを認めること (5) 土・日曜・休日リハ加算を設定すること (6) 自主・自己訓練指導料を設定すること (7) リハ実施計画書作成用ソフトの配布などで事務作業量の軽減を図ること などである. |
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表 診療報酬を請求したPTとOTの訓練量及び上限を超える訓練と自主・自己訓練(1日あたり)
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1日あたりADL(BI)改善率ランク分け5類 | PT・OT訓練量+上限超訓練+自主訓練(平日1日あたり)ランク分け2 | 合計 | ||||||
1 (0) |
2 (0.01〜1.00) |
3 (1.01〜2.00) |
4 (2.01〜4.00) |
5 (4.01〜) |
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1 | <0 (悪化) |
度数 | 19 | 11 | 5 | 2 | 37 | |
1日あたりADL(BI)改善率 ランク分け5類の% | 51.4% | 29.7% | 13.5% | 5.4% | 100.0% | |||
PT・OT訓練量+上限超訓練+自主訓練(平日1日あたり)ランク分け2の% | 7.7% | 5.1% | 1.4% | 0.6% | 3.1% | |||
2 | 0 (不変) |
度数 | 1 | 91 | 61 | 58 | 34 | 245 |
1日あたりADL(BI)改善率 ランク分け5類の% | 0.4% | 37.1% | 24.9% | 23.7% | 13.9% | 100.0% | ||
PT・OT訓練量+上限超訓練+自主訓練(平日1日あたり)ランク分け2の% | 100.0% | 37.0% | 28.4% | 16.3% | 9.5% | 20.8% | ||
3 | 0.001〜0.299 | 度数 | 34 | 41 | 140 | 146 | 361 | |
1日あたりADL(BI)改善率ランク分け5類の% | 9.4% | 11.4% | 38.8% | 40.4% | 100.0% | |||
PT・OT訓練量+上限超訓練+自主訓練(平日1日あたり)ランク分け2の% | 13.8% | 19.1% | 39.3% | 40.8% | 30.7% | |||
4 | 0.300〜0.599 | 度数 | 29 | 32 | 87 | 109 | 257 | |
1日あたりADL(BI)改善率ランク分け5類の% | 11.3% | 12.5% | 33.9% | 42.4% | 100.0% | |||
PT・OT訓練量+上限超訓練+自主訓練(平日1日あたり)ランク分け2の% | 11.8% | 14.9% | 24.4% | 30.4% | 21.9% | |||
5 | 0.600〜 | 度数 | 73 | 70 | 66 | 67 | 276 | |
1日あたりADL(BI)改善率ランク分け5類の% | 26.4% | 25.4% | 23.9% | 24.3% | 100.0% | |||
PT・OT訓練量+上限超訓練+自主訓練(平日1日あたり)ランク分け2の% | 29.7% | 32.6% | 18.5% | 18.7% | 23.5% | |||
合計 | 度数 | 1 | 246 | 215 | 356 | 358 | 1,176 | |
1日あたりADL(BI)改善率ランク分け5類の% | 0.1% | 20.9% | 18.3% | 30.3% | 30.4% | 100.0% | ||
PT・OT訓練量+上限超訓練+自主訓練(平日1日あたり)ランク分け2の% | 100.0% | 100.0% | 100.0% | 100.0% | 100.0% | 100.0% | ||
PT+OTの訓練量に上限を超える訓練と自主・自己訓練を加えても同様であった.改善率0以下の群には訓練量の少ない群が多い.また,改善率 0.001〜0.299 と 0.300〜0.599 の群では訓練量の多い群で高くなっている.しかし,改善率 0.600〜 では一定の傾向はみられない.( χ 2 検定:0.000).BI: Barthel Index |