<質問箱>

クリティカルパスとクリニカルパス

評価・用語委員会
小林 一成 (東京逓信病院リハビリテーション科)


Q 最近DRGs/PPSと並んで,クリティカルパスあるいはクリニカルパスが医療界において話題にのぼっていますが,どちらの呼び名が正しいのか,歴史的経過を含めてご教示ください.


A  そもそもクリティカルパス(critical path: CP=臨界経路)法とは,米国の産業界で1950年代に発展した工程管理技法の1つで,多数の工程からなるプロジェクトを短時間で,しかも最小経費で効率よく行うための分析手法であり,鍵となる工程をクリティカルパスと呼んだことに始まります.

現在医療界で用いられるCPは,それから連想して生まれた臨床経過管理方法であり,1985年に米国マサチューセッツ州ニューイングランド・メディカルセンターの正看護婦Karen Zanderにより医療界へ導入されました.当時の米国は,本格的な医療費抑制政策として保険支払い方式が出来高払い方式から,DRGs/PPSによる定額支払い方式に変更された直後であり,CPは医療の質を落とさずに最大の効果を上げるための方法として瞬く間に全米に広がり,ここ10年で全体の1/3以上の病院で用いられるようになっています.Zander自身は,この医療界へ導入したCPを“Care Map”という呼称で商標登録し,コンサルタント会社を設立していますが,その会社での一般名称としては,“critical path”あるいは“clinical path”の両方を使用しています.

現在,米国では他にもいくつかの呼び名があり,clinical pathway,clinical progression,anticipated recovery plan,care guide,target track,coordinated care planなどが使われており,最近では最後のcoordinated care planが好んで使われる傾向にあります.

よってその呼び名については,今のところどれが正しいとは言えず,今後議論を尽くした上で,医療界が共通の言葉として適切な呼び名を決めていく必要があります.

ただし,医療界で発展してきたものは,産業界で既に確立されているcritical pathとは概念的にニュアンスが異なる部分があることから,同じ名称で呼ぶことの是非は問われなければならないと思われます.

[参考文献]立川幸治,阿部俊子 編:クリティカル・パス.医学書院,1999


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