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Q 仙腸関節において,仙骨のうなずき運動,起き上がり運動に伴って骨盤の開きが変化するといわれています.つまり,左右のASIS間の距離に増大したり,減少するという変化が生じます.カイロプラクティックの世界ではこの現象をインフレアー,アウトフレアーと呼び,骨盤が前開きになっているかそれとも前で閉じているかを表現しています.リハ医学や理学療法学もしくは整形外科学の用語として,この「骨盤の開き」を的確にあらわす用語が存在するかどうかを審議していただきたいと存じます.なお,来る2003年3月の神奈川県理学療法士学会ではやむを得ず,いわゆる「骨盤の開き」という表現を用いて研究発表の抄録を提出いたしました.(横浜・理学療法士 GO)

A 仙腸関節は周囲に強力な靭帯群を有し,動きは少ないものの可動関節で,脊椎や股関節の動きに伴って相動的に動くと考えられます1).体幹の運動に伴って,仙骨が両腸骨間を前屈する動きを意味する“nutation”に関しては,うなずき運動や前屈運動と表現する論文・書籍が多く,後屈する動きを意味する“counter-nutation”に関しては,起き上がり運動や後屈運動と表現する論文・書籍が多いようです.山元ら2)の死体標本を用いた三次元動態解析(荷重変位特性)によると,仙腸関節の動態は屈曲1.3°,伸展1.7°,一方向への側屈が0.5°,一方向への回旋が0.6°であったと報告しており,また,この結果はMillerら3)の報告と近似した結果であったと述べています.Grieve's Modern Manual Therapy4)という書籍の中で,clinical manifestation of pelvic girdle dysfunctionの章にclassification of the hypomobile dysfunctionについての記述があります.その中にflexed/laterally rotated innominate bone(posterior rotated/outflared)およびextended/medially rotated innominate bone(anterior rotated/inflared)との表現があります.ご質問の中にあるアウトフレアーやインフレアーに関しては,このoutflared とinflaredを意味するのではないかと思われますが如何でしょうか.今回文献検索等で調べ得た限りでは,これらを表現する的確なリハ医学用語は現時点では見つかりませんでした.

【参考文献】
1)  村上栄一,国分正一,田中靖久,石塚正人:仙腸関節性腰臀部痛の基礎.脊椎脊髄 2000;13(6):439 -444
2)  山元 功,Panjabi MM:仙腸関節の三次元動態解析.関節外科 1999;18(5):14 -18
3)  Miller JAA, et al.: Load-displacement behavior of sacroiliac joints. J Orthop Res 1987; 5: 92 -101
4)  Lee DG: Clinical manifestation of pelvic girdle dysfunction. in Grieve's Modern Manual Therapy, 2nd Ed, Churchill Livingstone, 1994; pp 453 -462
(評価・用語委員会 小竹伴照)

(リハニュース16号:2003年1月15日)