Q 失語症患者の痴呆を評価する特別なテストバッテリーがありますか。
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A 非常に難しい問題ですが、調べた限りでは、失語症患者の痴呆を評価するために開発された特別なテストバッテリーはありません。
また、痴呆の中心をなすものは記憶障害と認知障害で、認知障害は、失語・失行・失認というかたちで現れます。痴呆の一症状としての失語は初期では語想起の低下、末期になると反響言語を呈します。痴呆症状の悪化に伴い、失語が重度になった場合も通常のテストバッテリーでは評価困難となります。さて、そうした中で、痴呆の定義を「記憶をふくめ複数の認知機能障害」と考えた場合、言語を介さずにいかに失語症を評価するかがポイントとなり、

視覚を介する、

日常生活動作から介助者に評価してもらう、という方法が考えられます。そこで、失語症の痴呆を評価するバッテリーとして以下のものを挙げてみました。
1. 視覚性・視空間性記憶検査:記憶検査としては言語性と視覚性のものがありますが、視覚性検査を上手く活用することが望ましいです。日本版ウエクスラー記憶検査法(WMS-R)の視覚性記憶課題・ベントン視覚記銘検査・Rey複雑図形検査・コース立方体検査などがあります。コース立方体検査は重度でも失語症の患者さんが比較的理解しやすい検査ですが、若年の患者さんではコース立方体の結果と知能指数が相関しない場合があり、注意が必要です。
2. 知能検査の動作性課題のみの評価:一般的にはWAIS-R成人知能検査(WAIS-R)を使用します。通常、PIQが80以下であれば低下と考えてよいですが、失語症が重度だと、さらに低下することが予想されます。
3. 注意機能・前頭葉機能の課題:Trail Making Test・レーヴン色彩マトリックス検査などがあります。しかし、いずれの評価法も要求されている内容(意味)が失語症のために分からなくて、そのためにテストに対する注意力・集中力が不十分になり、テスト結果が悪くなる可能性があることも理解しておかなければなりません。ちなみに、レーヴン色彩マトリックス検査では、タイプ別失語ごとの平均±標準偏差も成書には記載されていますので、参考になると思います。
4. 行動面の問題(異常行動・精神症状など):神経精神科検査票(NPI:neuropsychiatric inventory) などがあります。痴呆症患者で認められる精神症候である、妄想・幻覚・興奮・うつ等、計10項目について評価します。
5. 日常生活活動領域の評価:機能的評価ステージ(FAST: Functional Assessment Staging)があります。ADLの障害の程度により家族に聴取しながら行います。アルツハイマー型痴呆の重症度を評価する検査で、計7段階に分類されます。
文献 1) 石合純夫:高次脳機能障害学.医歯薬出版、東京、2003
2) 日本臨床 痴呆症学(1). 増刊号9、日本臨床社、東京、 2003
(奈良県立医科大学神経内科 矢倉 一)
(リハニュース24号:2005年1月15日)