Q 右半球損傷によるいわゆる注意力障害や遂行機能障害と、前頭葉損傷やびまん性軸索損傷による類似した症状の相違はどのように評価したらよいのでしょうか。(同様のご質問を複数いただきました。)
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A “注意”に関する神経ネットワークについては1)覚醒レベルの維持:青班、右前頭葉、頭頂葉が関与、2)知覚入力に対するオリエンテーション:上頭頂葉、側頭頭頂葉、前頭眼野、上丘が関与、3)遂行機能能力(executive function):帯状回前部、前頭前野、基底核が関与、の3種類があるとされています。fMRIの結果では、上記のうち1)は視床、2)は上および下頭頂葉、3)では帯状回前部と前頭前野、に特に強い賦活が見られたと報告されています
1)。
さらに、3)の遂行機能障害は、言語、行為、対象の認知、記憶などの高次脳機能を制御し統合する“より高次の”機能を意味します。いわゆる“前頭葉機能”とほぼ同義で使用されていますが、遂行機能は単一の機能ではなく、認知機能の柔軟性(セットの転換)、選択的注意、流暢性、decision making等の複数の機能を含むと考えられています
2)。脳機能画像では、空間的ワーキングメモリーが関する遂行機能は前頭葉の右に、言語的ワーキングメモリーに関するものは左に優位性があるとされています
3)。
一般的に“注意力の障害”については、上記の3種のうち主として障害されているネットワークにより、異なる表現型をとると考えられます。例えば、右半球の広範な障害では空間認知機能障害を伴う注意障害(2+3あるいは1+2+3)、前頭葉に限局した障害では他の高次脳機能障害がないにもかかわらず遂行機能能力のみ障害される(3のみ)、などのパターンをとり得ます。実際の評価法としては、Eriksen Flanker taskの変法として開発されたANT(attention network task)で、注意力障害の鑑別・評価を行うデータが多く報告されています4)。
文献
1)Raz A: Anatomy of attentional networks. Anat Rec 2004;
281B: 21-26
2)石合純夫: 高次脳機能障害学. 医歯薬出版, 東京, 2003; p 203
3)Wager TD, Smith EE: Neuroimaging studies of working memory: a meta-analysis. Cogn Affect Behav Neurosci 2003;
3: 255-274
4)Fan J, Fossela J, et al: Mapping the genetic variation of executive attention onto brain activity. Proc Natl Acad Sci 2003;
100: 7406-7411
(東京医科歯科大学神経内科 山脇正永)
(リハニュース26号:2005年7月15日)