専門医会総会《基調講演》 | 2006年6月2日 |
専門医制度の変遷と今後の展望 (1):
医学的リハビリテーションの特殊性
東北大学名誉教授 中村 隆一
はじめに、言葉の使い分けを説明します。「医学的リハビリテーション」は、いろいろな医学的ケアによって患者や障害者の機能的状態の改善および維持を図ることです。それを支えている理論と技術体系が、「リハビリテーション医学」です。医療保険制度の診療報酬において取り上げられている内容が、「リハビリテーション医療」です。専門職として業務に携わるときには、「技術とそれを支える理論」および「実践にかかわる法制度」について知識が必要とされ、私たちの日常業務もその例外ではありません。専門医制度は、この両者と関連しています。私たちの専門性は、医学的リハにかかわる基礎理論と科学技術によって支えられています。他方、専門医制度は、主に「医業」を規制している医療法や医師法、すなわち「実践にかかわる法制度」に関連したものです。医師や医療機関は、医療法で認められている診療科名以外の広告ができなかったのです。専門医に関する情報を社会へ向かって提供できることにしようという複数の医学会が進めてきた活動が専門医制度と関連しているのです。ひとつの制度が確立するのにどのような経緯があって、どれだけの歳月が費やされたかを要約して説明することが、本日の主な課題です。
わが国の専門制度のはじまり
1960年、医療法改正で広告のできる診療科名に麻酔科が加わり、麻酔科標榜医に資格基準が規定されました。それに対応するため、1962年、日本麻酔科学会が麻酔指導医制度(現在:麻酔科専門医)を発足させたのが、学会専門医制度のはじまりです。その後、1966年には医学放射線学会、皮膚科学会と脳神経外科学会、1967年に神経学会、1968年に内科学会と続きます。10年の間隔をおいて、1978年に病理学会、外科学会と形成外科学会、1979年に臨床検査医学会と小児外科学会、1980年に日本リハ医学会と消化器内視鏡学会というように、専門医制度を設ける学会が増えています。
日本リハ医学会の発足と専門医制度
日本リハ医学会は、1963年9月29日に発足しました。当時はいろいろな領域からの参加者がありましたが、次第に整形外科と温泉気候物理医学系の内科が中心になります。
専門医制度は、1970年代中頃から医学教育委員会で検討され、1980年6月に発足します。1979年のリハ医学誌(16巻55頁)に報告されているリハ医学専門医・認定医制度(試案大綱)には、「日本リハ医学会の専門医・認定医制度は、必要にして十分な能力をもつリハ医を認定することにより、わが国におけるリハ医学の進歩発展とその水準の向上をはかり、国民の健康と福祉の増進に貢献することを目的とする。(中略)わが国におけるリハ医学の歴史的背景、特質を考慮し、専門医と認定医の2種類の資格を設ける。専門医(specialist)とはリハ医学を専門とし、その全般にわたる一定水準以上の知識と経験をもつものをいい、認定医(expert)とは他科を専門としていて、その科に関連をもつリハに関する深い知識と経験をもつものをいう。この2者は同格であり上下の関係にはない。(後略)」とあります。この時代には、専門医・認定医の資格として、臨床経験と並んで、研究歴と教育歴が重視されています。標榜科名の問題は取り上げられていません。
その後、1987年の認定臨床医制度の発足、1996年には長年の懸案であった標榜科名「リハビリテーション科」の制定(医業について政令で定める診療科名)、2004年の「リハビリテーション科専門医」、医療法関連=広告可能資格の取得などの変遷があります。
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(次号の第2回は「学会認定医制協議会の設立及び厚生省の動き」から掲載いたします)