特集平成18年度診療報酬改定の影響について

日本リハ医学会の場合

日本リハビリテーション医学会理事 才藤 栄一
藤田保健衛生大学医学部リハビリテーション医学講座


診療報酬改定から数か月が経過したが、安定状態に入ったとは言いがたい状況にあるのはご存知のことと思う。恐らく後日、今回の改定はリハ医療の大きな変曲点として認識されることになるだろう。改定内容について私個人が最も重要と考える点は、1)疾患別の単位化、2)総合リハ施設基準の廃止を含む施設基準の単純平坦化、3)各療法の独自算定の廃止、4)代替者の導入の大幅緩和、5)算定日数上限の設定であり、それ以外で注目すべき改定は、集団療法廃止、急性期患者の1日単位上限の緩和、従事者1日単位上限の緩和、回復期入院日基準の早期化、障害児・者のリハの新設、摂食機能療法の算定日数拡大、訪問リハの単位化である(総合リハビリテーション34巻5号「巻頭言」2006年)。

ここでは、本医学会の社会保険等委員会特任理事(当時)として実際に関係諸機関と7か月間交渉にあたった立場で得た公にされていない事実にも私の責任において触れながら、私見を述べる。

道免和久先生や患者さん方の算定日数制限に対する反対運動には敬意を表する。今までのリハ医療においてこのような運動は存在しなかったし、タイムリーだと思う。権利を主張しないと一部の勢力の利権で事が容易に決まってしまうほど「公」の機能が低下しているからである。ただし一点だけ指摘したい。私の知る事実から考える限り、日本リハ病院・施設協会の石川誠先生に対する批判は誤りである。彼が算定日数制限を誘導したのではない。また、除外規定も諸批判が噴出したために作られたのではなく、それ以前に彼が厚生労働省(厚労省)に働きかけて拡大したものである。もし彼がいなかったら、今回の改定はもっと酷いものになっていたであろう。非難すべき相手を間違ってほしくない。

私見では、たとえ算定日数について規制が必要だとしても、リハ医療に精通した医師が診察診断した上でのリハ処方は認める、規制は頻度制限で行うなど、もっと柔らかな方法を導入すべきで、一律で繊細さに欠ける今回の改定はお粗末であった。そして、私たちがこのようなお粗末な結果しか得られなかった最大の原因は、言い訳がましいと言われるのを覚悟で弁明すれば、今回の改定が「私たちがコミットする以前に、既に多数の問題をもつ異質な大枠が決められていて、それに対して、限られた期限の中、種々の力関係の中で、軽んぜられながら、反駁に終始しなければならなかった過程」だったことに由来すると考えている。従って、最近になって厚労省が今回の改定について頻発している「関連学会の意見を聞いた上で〜」というコメントにあるこの「関連学会」の主たる団体はリハ医学会ではない。昨年の9月の時点で、彼らがリハ関連4団体としたのは、整形外科学会、臨床整形外科医会、運動器リハ学会、リハ医学会であり、リハ医学会はやっと最後に挙げられていて、もちろんリハ病院・施設協会や各療法士協会は入っておらず、厚労省担当課長も実際このような認識であった。そのために急遽、「リハ関連5団体」を作ったのである。

今回の改定で長期的に見て深刻な問題は、疾患別の単位化と各療法の独自算定の廃止だと思う。リハ医療は本来、各科による疾患別治療という「縦糸」に対する障害治療という「横糸」として存在すべきものであり、疾患別という概念が大前提のように議論されてきたのは根拠のないもので詭弁である(詳細は省く)。また、各療法での算定がなくなったのは、専門性軽視以外の何物でもない。つまり、改定過程が示したのは、未だにリハ医療がほとんど理解されていないということであった。

リハ医学会には、リハ病院・施設協会や各療法士協会と連携を図りながら、国民により良いリハ医療を提供するためにより適切な制度の提言をしていく責務がある。


日本リハ病院・施設協会の場合

日本リハビリテーション病院・施設協会副会長 石川  誠


平成18年の診療報酬は、平成15年3月に閣議決定された「医療に関する基本方針」、平成17年12月の「医療制度改革大綱」を基盤として、平成20年度から施行される「医療費適正化計画」を前倒しする形で実施された改定と考えられる。

当協会には平成17年8月末に厚労省保険局医療課から改定案の原型が示された。これをみた幹部は愕然とした。「リハ施設基準の疾患別体系への再編と算定日数制限」が示されていたからである。運動器リハ学会、臨床整形外科医会から運動器リハ施設基準の新設要望があるためとの説明を受けたが、算定日数制限や総合リハ施設基準の廃止に関しては理解できず、断固反対と繰り返し主張した。しかしリハ病院・施設協会の単独交渉では成果が期待できないと判断し、リハ医学会、理学療法士協会、作業療法士協会、言語聴覚士協会に連帯を呼びかけた。幸い各団体とも同様の考えであり、平成17年11月に「リハ関連5団体」として結束し交渉にあたることになった。

以降、各団体から数名の幹部により構成される会議において、密な情報交換を行い、徹底的な議論の上、共通の要望を掲げ厚労省と交渉していった。入院の算定日数制限には同意したが、外来は日数制限ではなく回数制限とすること、総合リハは存続させることを主張し、平成18年3月ぎりぎりまで厳しい交渉が続いた。

しかし、残念ながら総合リハ施設は形骸化し疾患別施設基準に決定された。ただし、算定日数制限には除外規定が設けられた。除外規定に関しては当初多くの誤解が生じ現場では混乱が続いた。失語症や高次脳機能障害を伴わない脳卒中片麻痺は180日でリハ打ち切りと考えた医療機関が多かったのである。厚労省は3月末〜4月末にかけて疑義解釈の通知を連発したが未だに混乱は収まっていない。しかし、リハの集中実施期間は短縮されたとはいえ日々の提供量は増加し、状態悪化時を起算日とできること、介護保険では算定日数制限はなく、短期集中リハ加算が新設されたことは若干の救いとなった。

今回の改定で最も重要な点は、急性期・回復期リハは医療保険、維持期リハは介護保険に整理されたことである。したがって、診療報酬の次回改定で平成18年度改定の問題解決を要望するとともに、介護保険のリハの重点整備が大きな課題となろう。各医療機関が介護保険によるリハの充実に努力するとともに、「リハ関連5団体」が結束し継続的に厚労省に働きかけることが一層重要になったと考える次第である。


日本理学療法士協会の場合

日本理学療法士協会副会長 日下 隆一

日本理学療法士協会調査(以下、協会調査)n=132、北海道理学療法士会調査(以下、北海道調査)n=84、東京都理学療法士会調査(以下、東京都調査)n=198を基に、施設基準のあり方について考察した。なお、協会および東京都調査は、集計途中のデータである。

■ 新たな施設基準を取得した施設の割合は、運動器リハI85%、脳血管リハII 60%、呼吸器リハI 51%、脳血管リハI35%、運動器リハII 14%、呼吸器リハII 11%、心大血管リハI 5%、心大血管リハII 2%であった。

■ 調査施設全体の点数の増減(昨年度と今年度の6月の比較)は、北海道調査では−5.4%、協会調査では−4.1%であったが、個別にみると、点数減施設57%、点数増施設25%、点数不変施設11%であった。

■ 点数減施設の特徴は、

急性期リハができなくなった10%
維持期リハができなくなった65%

■ 点数増施設の特徴は、

急性期リハができるようになった32%
回復期リハができるようになった40%
維持期リハができなくなった42%

■ 患者数の増減でみると、点数減施設の66%、点数増施設の24%で患者数の減少がみられた。

■ 常勤理学療法士数の増減は、東京都調査では平均0.2人の増であるが、協会調査では点数減施設0人(増減なし)、点数増施設1.5人増であり、理学療法士を募集して満たせた施設は全体の37%であった。

■ 施設基準の面積用件に関して取り組んだ施設は全体の11%であるが、点数減施設では6%、点数増施設では18%であった。

調査結果は、新たな施設基準取得への施設の積極性が点数にも影響を与えていることを示唆するものであったが、突出した運動器リハI施設数の状況は施設基準に問題があったものと思われる。特に、脳血管リハI施設が極めて少ない状況は、単に点数に関わるだけでなく、急性期リハの充実、さらには在宅ケアにおけるリハ提供体制にも影響を与えるだけに、見直しが必要と思われる。この場合、面積用件に取り組める施設状況ではないこと、面積用件の重要性が低下していることなどを勘案すると、面積用件を大幅に緩和し、人的用件に関しても社会情勢に相応し緩和からの逓増性という考え方が必要と思われる。これは、リハ拡充に消極的な施設のリハ提供拡充を促すものであると考えられる。また、理学療法士の需給問題は、次第に好転していると思われた。


日本作業療法士協会の場合

日本作業療法士協会副会長 中村 春基


今回の診療報酬の改定に対して、(社)日本作業療法士協会(以下、協会)では、昨年6月と9月に影響調査を行ったのでその一部を紹介する。

■ 調査対象および調査方法:調査は旧リハ施設基準が作業療法I、作業療法IIを各150施設、発達障害領域50施設を無作為中抽出し、アンケート調査を行った。回答数は98施設(28%)で、うち身体障害系は86施設(29%)、発達障害系は12施設(24%)であった。

■ 結果:疾患別リハ施設基準取得状況は、旧Iの施設は、脳血管I、運動器Iをほぼ全施設で取得していた。呼吸器リハIは58%、心大血管リハIは13%であった。旧IIでは、運動器Iが88%、脳血管Iが46%であった。

■ 1カ月間の部門実績集計は、作業療法実施対象者数は、脳血管リハI(75,823人、2,001,589単位)、運動器リハI(19,696人、319,879単位)、脳血管リハII(49,024人)、運動器リハII(692人)、呼吸器リハI(327人)であった。訓練時間は2単位実施が49%、3単位以上実施が18%、1単位実施が33%であった。

■ 疾患別リハの実施内容では、呼吸器リハを除き、「運動」が最も多く、ADL、上肢動作の順で実施されていた。呼吸器リハでは身辺処理が最も多かった。

■ 在宅訪問リハ指導管理料の実施件数の変化では、増加が12%、変化なしが88%であった。実施単位数では1単位が58%、2単位が40%、3単位以上が1%であった。その実施内容をみると、運動、起居・移動が最も多く、次いで上肢動作、感覚・知覚へのアプローチ、生活・社会適応、代償手段の適応等の順であった。

■ 算定日数制限については、3月時点での対象者の50.5%が日数制限対象者であった。3月時点での修了者の54%は介護保険関連事業へ移行し、サービス等利用なしで在宅生活となったケースは19%であった。OT対象者の46%がリセットの対象となり、6.8%が訓練終了となった。10月の日数限定による修了者対象者は1,710名であり、修了者中90.2%は継続して訓練が必要と捉えられている。また、修了者中38.9%は介護保険への移行が困難であった。

■ 集団訓練については、63.4%が改定後集団訓練を廃止し、集団訓練導入者の34.5%は個別訓練移行している。しかし、22%の施設で現在も集団の形態を活用しており、集団の特性を活用した訓練の必要性を認めている。

■ 収益の増減では、旧Iでは、増収57%、減収34%、増減なしが9%であった。旧IIでは、増収36%、減収59%であった。

以上、中間報告の概略を紹介したが、協会はこれらの調査結果を踏まえ、リハ医学会が要望した4項目*に加え、(1)心大血管リハおよび呼吸器リハ対象者への作業療法を提供できる体制、(2)急性期リハの充実のために、発症後一定期間を対象に、集中的、総合的なリハが提供できる体制の充実、(3)療法別報酬体系の設置、(4)集団作業療法の設定、(5)訪問リハステーションの設置等について重点的に取り組んでいく。

最後に、次回改定に向けてはリハ医療関連団体が一枚岩になり関係団体に働きかけることが必須であると認識している。作業療法士有資格者数は現在33,696名で、5年後は5万人を超える職能集団となる。国民の健康と生活の向上に寄与できる集団として、協会は今後も「質」と「量」を担保していきたい。

*リハ医学会が要望した4項目については、学会HP、学会誌43巻12号をご覧ください。


日本言語聴覚士協会の場合

日本言語聴覚士協会副会長 長谷川賢一


昨年5月の時点における現状は脳血管Iの施設は約50%、言語聴覚士のみで施設基準Iの施設は約2%、基準IIは約28%、基準なしの施設が約7%となっている。Iの施設はほとんどがそのままIに移行したが、IIの施設はIに移行が約42%、移行なしが約44%である。Vの施設は約40%がIもしくはIIに移行したが、残りは施設基準が取れていない。医療と介護分野における言語聴覚士の数を比較すると、改定前後で変化はなく、ほとんどが医療分野で、介護分野は10%に満たない。現在の言語聴覚士数は約11,300名であるが、絶対数が不足している現状にある。

検討すべき課題としては疾患別施設基準、算定日数制限、施設基準IIの診療報酬、回復期リハ病棟への言語聴覚士の位置づけなどが挙げられる。中でも今回の最大の変更点である疾患別施設基準は、疾患から派生する様々な障害に対応するというリハ分野の特性から検討を要する点が多い。特に脳血管疾患は合併する障害も多く、包括的な施設基準のほか、人員配置も含め検討の余地があると考える。

介護保険においても言語聴覚士は様々なサービスに位置づけられ、活躍の場が広がってきた。しかし、訪問看護ステーションからの言語聴覚士による訪問サービスでは業務内容に制限が設けられている。当協会が行った在宅サービスの実態調査によると、利用者は多彩な障害を持っており、また嚥下障害以外に様々な訓練ニーズを持っている。言語聴覚に障害のある方が、限定した訓練しか受けられない状況は問題であり、制限条項を削除すべきと考えている。

今後の方針としては、改定直後の調査に続き、今年1月には第2回目の実態調査を行い、現状を把握するとともに今後の対策についてまとめることにしている。これをもとにリハ関連5団体とも連携を図りつつ幅広く活動していく考えである。保険以外の取り組みとしては、介護保険分野、小児・聴覚分野、教育・福祉分野への取組み促進のほか、障害児・者の多様なニーズに対し、質の高い専門的サービスで応えられるよう生涯教育を更に充実し、言語聴覚士の資質向上を図っていく方針である。