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平成20年度リハビリテーション医学に関連する社会保険診療報酬等の改定について

2008年8月5日

社会保険等

日本リハビリテーション医学会 社会保険等委員会

担当理事 里宇明元,水間正澄
委員長 田中宏太佳(報告担当)
委員 江端広樹,染屋政幸,尾花正義,長谷公隆,古市照人,
古閑博明,高橋博達,原 寛美,近藤克則
赤星和人,梅津祐一,畑野栄治(平成20年3月31日まで)
川手信行,藤谷順子,森 英二(平成20年4月1日から)

はじめに

平成19年12月3日に社会保障審議会保険部会・医療部会において,「平成20年度診療報酬改定の基本方針」が取りまとめられた.12月24日に診療報酬の改定率を含む平成20年度予算案が閣議決定され,平成20年1月18日に厚生労働大臣より中医協に対し診療報酬点数の改定案を作成するように諮問が行われ,平成18年度改定と同様にパブリックコメントの募集や公聴会も開催された.2月13日には中医協より厚生労働大臣に対し,改定案に対して答申書が提出された.これによると平成20年度診療報酬改定の基本方針は大きく6つに分類される.

まず緊急課題である基本方針として,「産科や小児科を始めとする病院勤務医の負担の軽減」が提示され,「産科・小児科への重点評価」の具体的な対策として「障害児リハビリテーション料」における単価の増点と対象施設の拡大および「集団コミュニケーション療法」の新設が行われた.
基本方針Iの「患者から見て分かりやすく,患者の生活の質を高める医療を実現する視点」における「わかりやすい診療報酬体系」に改善する方法として,疾患別リハビリテーション(以下,リハ)料の見直しが行われ,逓減性の廃止と脳血管疾患等リハ料を3段階に細分化し,維持期のリハにおける疾患別リハ医学管理料が廃止され,標準的算定日数を超えたものについては,月13単位を上限に算定可能なよう変更された.また,リハ料単価の変更・施設基準の緩和が行われ,早期リハ加算の新設およびリハ総合計画評価料も見直された.

基本方針IIの「質の高い医療を効率的に提供するために医療機能の分化・連携を推進する視点」における「質の評価手法の検討」として,回復期リハ病棟の施設基準の要件に居宅等への復帰率や重症患者の受け入れ割合に着目した質の評価を試行的に導入することによって,2段階制とした.また重症患者回復病棟加算が新設された.

基本方針IIIの「わが国の医療の中で今後重点的に対応していくべきと思われる領域の評価のあり方について検討する視点」における「がん医療の推進」のためにリンパ浮腫指導管理料が新設された.また,「脳卒中対策」として地域連携診療計画(地域連携クリティカルパス)の対象疾患に脳卒中が追加された.その他の基本方針として,IV「医療費の配分の中で効率化の余地があると思われる領域の評価のあり方について検討する視点」およびV「後期高齢者医療制度における診療報酬」が示されている.この報告の本文では,3月5日に示された厚生労働省省令・告示および保険局長・医療課長通知を参考にして,平成20年度の診療報酬改定におけるリハ医学に関連する部分の概略を解説する.

1.疾患別リハ料の見直し

1)訓練室施設基準の見直し(表1)

リハ治療室はすべての疾患別リハにおいて,治療時間以外の時間帯においては他の用途に使用してもよいことが示され,また心大血管疾患リハ料Iで使用する訓練質面積は病院では30m2診療所では20m2とIIに規定された面積と同様でも実施可能となり,訓練室要件に関しては緩和された.

専用の機能訓練室に必要な機器・器具として,心大血管疾患リハ料においてホルター型心電図(携帯用心電図記録器)は削除され,運動負荷試験装置は機能訓練室になくても当該医療保険期間に備えていれば可能と緩和された.

2)人的要件の見直し(表1)

人的要件においては,脳血管疾患等リハ料において適正な評価の観点から,3段階に区分し直された.従来の施設基準IIが施設基準IIIとなり,新たに専従の常勤理学療法士1名以上および専従の常勤作業療法士1名以上を含む療法士人数合計4名とした施設基準IIが創設され,多くの施設において脳血管疾患等リハ料が算定しやすくなった.また,脳血管疾患等リハ料施設基準Iにおいてその専任医の規定で,2名のうち1名は脳血管疾患等のリハ医療に関する3年以上の臨床経験又は脳血管疾患等のリハ医療に関する研修会,講習会の受講歴(又は講師歴)を有することなり,従来の経験を有する内容が具体的に示された.

心大血管疾患リハ料Iにおける担当医師は,平成18年度改定では治療を担当する医師は循環器科又は心臓血管外科の医師に限定されていたが,今回の改定では心大血管疾患リハの経験を有する専任の常勤医師が1名以上勤務していることに緩和された.専任の医師の専ら直接の監視である必要は無く,指導管理の下に実施することとし医師が直接監視を行うか,又は医師が同一敷地内において直接監視をしている他の従事者と常時連絡が取れる状態かつ緊急事態に即時的に対応できる態勢であることと緩和された.担当する医療職においては,専従の常勤2名のいずれか一方は専任の従事者で差し支えないと専従要件が緩和された.

運動器リハ料における運動器リハに係る研修を終了した医療職名に,看護師・准看護師・柔道整復師が加えられて明文化された.

呼吸器リハ料に関わる療法士においては,従来は専従の常勤理学療法士のみであったが,今回の改定より1名は常勤作業療法士であることが認められるようになった.

表1 リハビリテーション料に関する施設基準

 

3)リハ料単価の変更と逓減制の廃止およびリハ医学管理料の廃止(表2)

各疾患別リハ料におけるリハ料の単価は基準Iを中心に引き下げられた.一方,算定日数の上限(今回の改定から標準的算定日数という言葉に差し替えられた)を基準として一定期間前から導入され,算定日数の上限以降継続して設定されていた逓減制が廃止された.またリハ医学管理料が廃止され,標準的算定日数を超えた患者については,1月に13単位に限り疾患別リハ料の所定点数を算定できることになった.算定単位上限を超えたものについては,保険対象外として患者が全額を支払うが,通常の保険診療と併用できる選定療養として実施できることになった.

ただし,別表第九の八に掲げる場合については(表3),標準的算定日数を超えた場合であっても,標準的算定日数内の期間と同様に算定できるとされた.

表2 疾患別リハビリテーション料

 

表3 算定日数の上限の除外対象患者(平成20年3月5日厚生労働省告示 別表第九の八)

 

4)疾患別リハ料の算定における運用上の注意

標準的算定日数を超えて継続して疾患別リハを行う患者のうち,治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合(表3)は,(1)これまでのリハの実施状況(期間及び内容),(2)前月の状態との比較をした当月の患者の状態,(3)将来的な状態の到達目標を示した今後のリハ計画と改善に要する見込み期間,(4)FIM,BI,関節の可動域,歩行速度及び運動耐用能などの指標を用いた具体的な改善の状態等を示した継続の理由を摘要欄に記載することとなり,平成18年度の改定に追加して新たに改善に要する見込み期間を記入するようになった.また,廃用症候群に該当するものとして脳血管疾患等リハ料を算定する場合は,廃用をもたらすに至った要因,臥床・活動性低下の期間,廃用の内容,介入による改善の可能性,改善に要する見込み期間,前回の評価からの改善や変化,廃用に陥る前のADLについて定められた様式を用いて,月ごとに評価するように定められた.

5)疾患別リハ料の対象になる病名の見直し(表4)

特に,呼吸器リハ料の対象となる疾患名の是正の必要性が指摘されていたこともあり,疾患名に肺腫瘍や肺塞栓が新たに追加され,食道癌,胃癌,肝臓癌,咽・喉頭癌等の患者であって,手術後の患者で呼吸機能訓練を行うことで術後の経過が良好になることが医学的に期待できる患者においては手術日から概ね1週間前にも対象とできるようになった.

表4 各疾患別リハビリテーション料対象患者(平成20年3月25日厚生労働省告示および課長通知より)

 

2.早期リハ加算の新設

疾患別リハ料の算定日数上限の起算日から30日間に限り1単位につき30点算定可能な早期リハ加算が新設された.これは入院中の患者についてのみ算定可能である.一方,入院中の患者に対し訓練室以外の病棟等において行われたものについてのみ算定できたADL加算は廃止された.それにともなって,1日9単位まで算定可能な対象者が変更された(表5).

通知ではこの加算について,「当該施設における治療開始後早期からのリハの実施について評価したものであり,入院中の患者に対して1単位以上の個別療法を行った場合に算定できる.また,訓練室以外の病棟等(ベッドサイドを含む.)で実施した場合においても算定することができる.」と説明されている.

表5 1日9単位算定可能な患者(平成20年3月5日厚生労働省告示 別表第九の三)

 

3.リハ総合計画評価料の見直し

リハ総合計画評価料は480点から300点に減点された.但し,1月に1回を限度として算定可能と算定回数が緩和された.また,回復期リハ病棟でも算定が可能となった.

4.集団コミュニケーション療法の新設

算定要件は,1単位につき50点で1人につき1日3単位まで算定可とされ,言語聴覚士1人当たり1日のべ54単位を限度と規定された.施設基準は,現に脳血管リハ(I,II,III)又は障害児(者)リハ料を算定し専用の集団療法室を備えていることが条件である.対象患者は,言語・聴覚機能障害を有する脳血管リハ料又は障害児リハ料の対象患者である.通知では,「集団コミュニケーション療法料の算定対象となるのは,脳血管疾患等リハ料又は障害児(者)リハ料を算定する患者のうち,1人の言語聴覚士が複数の患者に対して訓練を行うことができる程度の症状の患者であって,特に集団で行う言語聴覚療法である集団コミュニケーション療法が有効であると期待できる患者である.集団コミュニケーション療法の実施単位数は言語聴覚士1人あたり1日のべ54単位を限度とする.また,集団コミュニケーション療法と脳血管疾患等リハ又は障害児(者)リハを併せて行っている従事者については,実施するリハの単位数が,集団コミュニケーション療法3単位を疾患別リハ1単位とみなした上で,1 日に概ね18単位,週に108単位を超えないものとする.」と記載されている.

5.障害児リハ料の充実・拡大

実施する施設として,脳性麻痺等の発達障害児・者及び肢体不自由児施設等の厚生労働大臣の指定するものに加えて,リハを実施される患者が主として(8割以上)脳性麻痺等の患者である施設が追加された.患者1人1日6単位まで算定可能で,報酬は1単位につき6歳未満は220点,6~18歳未満は190点,18歳以上は150点が算定できるように引き上げられた.施設基準は病院60m2,診療所45m2以上に緩和された.

6.地域連携診療計画の評価の拡大と見直し

地域連携診療計画管理料は1,500点から900点に,また地域連携診療計画退院時指導料は1,500点から600点に減点され,回復期リハ病棟でも算定が可能となった.対象疾患には,大腿骨頸部骨折に脳卒中が加えられた.脳卒中を対象にする場合,都道府県が作成する医療計画に記載されている病院又は有床診療所で算定可能であるとされた.

7.回復期リハ病棟入院料の見直し

回復期リハ病棟入院料1が設置され,従来の入院料に比べて10点多い1,690点に設定された(1の条件を満たさない回復期リハ病棟入院料2の1,590点および後述する重症患者回復病棟加算を加えた1,740点の3本立てとなった).算定要件として回復期リハを要する状態患者が8割であることは以前と同様であるが,新規入院患者のうち1割5分以上が重症患者で,退院患者のうち他の保険医療機関(介護老人保健施設を含む)への転院した者等を除く者の割合が6割以上であることが規定された.施設基準として4つのリハ料(Ⅰ)の1つ又は脳血管疾患等リハ料(II)(III)のいずれか1つを算定していることが必要である.重症患者回復病棟加算50点(1日につき)が,重症患者の3割以上が退院時に日常生活機能が改善した場合に算定できるようになった.医師は専従ではなく,専任の医師1名以上に緩和され,疾患別リハに登録されている医師と重複することも可能となった.また,回復期リハ病棟対象疾患が追加された(表6).

通知において,回復期リハ病棟に関しての要件は,「リハの実施に当たっては,医師は定期的な機能検査等をもとに,その効果判定を行いリハ実施計画を作成する必要がある.

回復期リハ病棟入院料を算定している患者は,転院してきた場合においても,発症後2カ月を越えても転院先の保険医療機関で当該入院料を継続して算定できることとする.ただし,その場合にあっては,当該入院料の算定期間を通算する.なお,診療報酬明細書に転院してきた旨を記載すること.

回復期リハ病棟入院料を算定するに当たっては,当該回復期リハ病棟への入院時又は転院時及び退院時に日常生活機能評価の測定を行い,その結果について診療録に記載すること.なお,区分番号「B005.2」地域連携診療計画管理料を算定する患者が当該回復期リハ病棟入院料を算定する病棟に転院してきた場合には,当該患者に対して作成された地域連携診療計画に記載された日常生活機能評価の結果を入院時に測定された日常生活機能評価とみなす.」ことが新たに追記された.

また,その施設基準に関する通知には,「リハ科を標榜しており,病棟に専任の医師1名以上,専従の理学療法士2名以上及び作業療法士1名以上の常勤配置を行うこと.なお,複数の病棟において当該入院料の届出を行う場合には,病棟ごとにそれぞれの従事者が配置されていること.

当該病棟への入院時等に測定する日常生活機能評価は,別添6の別紙22を用いて測定すること.また,当該日常生活機能評価表の記入は,院内研修を受けたものが行うものであること.なお,院内研修は,次に掲げる所定の研修を修了したもの(修了証が交付されているもの)若しくは評価に習熟したものが行う研修であることが望ましい.

ア 国及び医療関係団体等が主催する研修であること(1日程度)

イ 講義及び演習により,次の項目を行う研修であること

(イ)日常生活機能評価の考え方,日常生活機能評価表の構成と評価方法

(ロ)日常生活機能評価に係る院内研修の企画・実施・評価方法

(8)毎年7月において,1年間(前年7月から6月までの間)に当該入院料を算定する病棟に入院していた患者の日常生活機能評価について,別添7の様式49の4により地方社会保険事務局長に報告を行うこと.ただし,平成20年7月の報告は要しないこと.

表6 回復期リハビリテーションを要する状態および算定上限日数(別表第九)

 

回復期リハ病棟入院料1の施設基準

(1)当該病棟が回復期リハ病棟入院料1を算定する場合,重症の患者(別添6の別紙22に定める日常生活機能評価で 10点以上の患者をいう.以下この項において同じ.)が新規入院患者のうち1割5分以上であること.なお,その割合は,次のアに掲げる数をイに掲げる数で 除して算出するものであること.

ア 直近6カ月間に当該回復期リハ病棟に新たに入院した患者(第2部通則5に規定する入院期間が通算される再入院の患者を除く.)のうちの重症の患者数

イ 直近6カ月間に当該回復期リハ病棟に新たに入院した患者数(第2部通則5に規定する入院期間が通算される再入院の患者数を除く.)

(2)他の保険医療機関へ転院した者等とは,同一の保険医療機関の当該入院料に係る病棟以外へ転棟した患者,他の保険医療機関へ転院した患者及び介護老人 保健施設に入所する患者のことをいう.なお,退院患者のうちの他の保険医療機関へ転院した者等を除く者の割合は,次のアに掲げる数をイに掲げる数で除して 算出するものであること.

ア 直近6カ月間に退院した患者数(第2部通則5に規定する入院期間が通算される再入院患者を除く.)のうち,他の保険医療機関へ転院した者等を除く患者数

イ 直近6カ月間に退院した患者数(第2部通則5に規定する入院期間が通算される再入院 患者を除き,他の保険医療機関へ転院した者等を含む.)

重症患者回復病棟加算の施設基準

重症の患者のうち3割以上の者が退院時に日常生活機能評価で3点以上改善していること.なお,その割合は,次の(1)に掲げる数を(2)に掲げる数で除して算出するものであること.

(1)直近6カ月間に退院した重症の患者(第2部通則5に規定する入院期間が通算される再入院の患者を除く.)であって,入院時と比較し日常生活機能評価が3点以上改善した患者数

(2)直近6カ月間に当該病棟に入院していた重症の患者数」が平成18年度通知に追加されている.

おわりに

以上の内容は,今後厚生労働省保険局医療課から出される通知により変更される可能性があり,またその解釈については各地方社会保険事務局等において異なる場合もあることから,注意が必要である.