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ダイバーシティ&インクルージョン

第60回学術集会 男女共同参画委員会企画シンポジウム報告レポート

男女共同参画委員会企画シンポジウム「女性アスリート支援のための連携」

第60回日本リハビリテーション医学会学術集会において開催された男女共同参画委員会企画シンポジウム「女性アスリート支援のための連携」の座長・シンポジストの先生方に、講演内容とシンポジウムのご感想をおまとめいただきましたので紹介いたします。

概要
  1. 日時:2023年7月2日(日)
  2. 会場:福岡国際会議場
  3. プログラム:
    はじめに
    金内 ゆみ子(山形市立病院済生館 リハビリテーション科)
    1)運動・スポーツが女性の身体機能に与える影響について
      黒木 洋美(大分中村病院 リハビリテーション科)
    2)車いすバスケットボール選手のメディカルサポート -女性アスリートの三主徴を含めて-
      清水 如代(筑波大学医学医療系 リハビリテーション医学)
    3)サッカー女子日本代表「なでしこJAPAN」帯同ドクターの役割
      鈴木 朱美 (山形大学医学部 整形外科学講座)
    4)日本パラ陸上競技連盟での女性アスリートサポート
      伊藤 倫之(愛知学院大学 健康科学部)
    5)女性アスリートと栄養 女子中高生長距離選手へのアプローチ "現場の声に耳を澄ませる"
      小川 貴美子(京都田辺中央病院 臨床栄養部)
    座長より
    三上 靖夫(京都府立医科大学大学院 リハビリテーション医学)

はじめに

金内 ゆみ子シンポジウム担当委員/山形市立病院済生館リハビリテーション科

第60回日本リハビリテーション医学会学術集会において、男女共同参画委員会企画シンポジウムとして「女性アスリート支援のための連携」を開催しました。

女性アスリートが、健康にハイパフォーマンススポーツを継続できる環境を整備するために、スポーツ庁をはじめ多くの組織が連携して「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」を実践しています。今回は、リハビリテーション医学の視点から、女性アスリートが抱える健康課題に対するサポートを実践されている第一線の先生方にご講演いただきました。

本シンポジウムではトップ競技レベルからパラスポーツ、地域での活動まで幅広い領域におけるスポーツの特性、支援システムの構築について、また、コロナ禍での検診、栄養サポートなどの多くの課題に対して、女性アスリートの特性に留意した多角的なアプローチの現状を詳細にご紹介いただきました。多職種連携による継続的なサポートの重要性が再認識させられる内容です。

リハビリテーション医学・医療にはスポーツ傷害からの復帰に加え、その発症や再発の予防においても重要な役割が期待されています。さまざまなスポーツへの女性参加が急速に広まりつつある本邦において、女性アスリートが安全にスポーツに参加できるための支援は、医学的に大きな意義を有すると同時に、本医学会がめざす社会貢献にもつながる取り組みであるといえます。

今後よりいっそう、女性アスリート支援のための連携が進み、長く健康的に競技を続けることができる社会を実現させるために、本シンポジウムがその一助となれば幸甚です。

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1)運動・スポーツが女性の身体機能に与える影響について

黒木 洋美大分中村病院リハビリテーション科

私はトップバッターとして、女性アスリートとしての側面だけでなく、女性の身体特性や運動の影響について包括的に話しました。まず、性別・年齢別の運動実施率についての調査結果を提示し、女性の運動不足の実態を示しました。次に女性をライフステージでとらえて、運動・スポーツの影響は生涯にわたること、特に成長期の女子におけるハイインパクト運動の重要性、月経に関連した生活管理の知識を深める必要性を伝えました。最後に女性アスリートが直面する問題や課題として、成長期における骨端症やスポーツ外傷、更年期以降における運動器の変性疾患など、女性ならではの健康リスクについて詳細に解説しました。女性アスリートの育成における指導者や保護者の役割は大きく、女性の特性や男性との成長の違いを理解し、適切な運動指導やケアを提供することの重要性を強調しました。

総括すると、女性アスリートの支援には、性差や成長の違いを考慮した適切なアプローチが求められます。医療関係者や指導者、保護者が協力し合い、女性アスリートの健康と成長を支えることが重要です。

適度な運動やスポーツは、女性の骨や筋肉、内分泌系の調整に大きく関与し、健康維持・増進に重要な役割を果たしています。これからも、女性特有のライフイベントを考慮した運動・スポーツの意義を伝え、アスリートの健康促進に努めることを、シンポジストとして伝えることができていれば良いなと思います。

他の5人のシンポジストの先生方も、実際にアスリートを支援している立場で現状と課題について示唆に富むお話をされていて、私自身もとても勉強になりました。

三上靖夫先生と金内ゆみ子先生の座長による進行で、最後の質疑応答も活発であり、日々の現場で携わるメディカルスタッフの疑問や問題も浮き彫りになりました。このシンポジウムが、今後の女性アスリート育成の支援について示唆に富むよい機会になったのではないかと思います。私はシンポジストの1人として、会場内に連帯感のようなものが生まれたことをうれしく思います。また、男女共同参画委員会が企画したこのシンポジウムに携われたことを深く感謝します。

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2)車いすバスケットボール選手のメディカルサポート―女性アスリートの三主徴を含めて―

清水 如代筑波大学医学医療系リハビリテーション医学/日本車いすバスケットボール連盟医事委員会

六崎 裕高日本車いすバスケットボール連盟医事委員会/茨城県立医療大学医科学センター

松原 宗明日本車いすバスケットボール連盟医事委員会/筑波大学医学医療系心臓血管外科

和田野安良日本車いすバスケットボール連盟医事委員会/霞ヶ浦リハビリテーション整形外科クリニックリハビリテーション科

シンポジウム「女性アスリート支援のための連携」に参加し、日本車いすバスケットボール連盟のチームドクターとしての活動について発表しましたので、その内容を報告いたします。

日本車いすバスケットボール連盟にはチームドクター4名が所属しています。年1回メディカルチェックを実施し、選手の身体状況を把握しています。合宿や競技大会での医務活動に加え、日常生活や練習で生じる外傷や体調不良などについて、選手個人またはトレーナーを介して相談を受け、随時対応しています。車いすバスケットボール選手は、体幹機能に応じて、1.0~4.5点のクラスに分類されます。点数が大きくなるにつれ、体幹の安定性が増しますが、コート内の5人の合計点数を14点未満にする必要があります。異なる疾患や障害をもつ選手がコート内を躍動する、それが車いすバスケットボールの難しさであり魅力です。

クラス分けはパラスポーツ特有のルールであり、選手の身体状況を正確に把握してMedical Diagnosis Formを作成することは、医師の重要な役割です。適切なクラスに分類するためには、疾患、障害、競技の理解が必須です。

パラスポーツ選手は原疾患を有するため、競技力向上と二次障害の予防を両立することが特に重要であることから、われわれは2011年より多職種によるリサーチミーティングを定期的に開催しています。これまで褥瘡分類の1つである皮下軟部組織損傷(deep tissue injury)や肩関節痛の評価、睡眠・栄養調査などを実施してきました。本シンポジウムのテーマである女性アスリートの三主徴に関する調査も実施し、半数の選手に月経異常がみられることや、採血データは正常範囲内、平均骨密度はYAM値の109.2%と正常であったものの、利用可能エネルギーの平均値は推奨レベルを下回る結果であったこと、上肢骨格筋量は同年齢健常者より高く(150.6%)、競技特性を裏づける結果であったことを報告しました(Shimizu et al. Medicina 2020)。また、新型コロナウイルス感染症の流行期間中は、選手を直接診察することが困難でしたが、Zoom®やLINE®などのオンラインツールを駆使して選手、トレーナー、スタッフとの情報共有を行い、感染予防対策に関して議論を重ねてきました。活動が再開された現在も、コロナ禍の期間に構築された多職種によるチーム体制を活かし、継続的な包括的サポートを実施しています。

本シンポジウムは、スポーツによって生じる女性の身体機能の変化、サッカーやパラ陸上競技、栄養サポートなど多岐にわたるテーマが取り上げられ、2時間があっという間に感じられました。シンポジストごとに専門性のある発表でしたが、選手に寄り添いチームでサポートしていくという考え方は共通であることを実感しました。パラスポーツの魅力を広く伝え、サポーターをさらに増やしていきたいと考えました。

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3)サッカー女子日本代表「なでしこJAPAN」帯同ドクターの役割

鈴木 朱美山形大学医学部整形外科学講座

齊藤 雅彦千葉メディカルセンター整形外科・スポーツ医学センター

山口 奈美宮崎大学医学部整形外科

長尾 雅史順天堂大学医学部整形外科

髙木 理彰山形大学医学部整形外科学講座

サッカー女子日本代表チームは年代別に、なでしこJAPAN、U-19/20代表、U-16/17代表の3つのカテゴリーからなります。なでしこJAPANは2021年に新体制となり、2023年FIFA女子ワールドカップ(オーストラリア&ニュージーランド)、2024年パリオリンピックを目標として活動しています。2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの際には、国内活動もできない状態でしたが、2021年10月以降は日本サッカー協会(JFA)の感染症予防ガイドラインに従い活動を再開し、2022年には海外遠征3回、国内活動3回と、ほぼCOVID-19発生以前の状態に戻ることができました。現在、なでしこJAPAN の帯同医師は、整形外科医男性2名、女性2名からなり、長期の国際大会の際には、昨今のCOVID-19対策も兼ねて、内科医にも帯同していただいております。

帯同の事前準備としては、選手情報の把握、食事メニューの確認、必要時はワクチン接種を行います。集合初日にはメディカルチェックを行い、外傷や障害の有無とその程度、内服薬やサプリメント摂取の確認を行います。日々の起床後にはコンディション(体重、体脂肪、心拍数、体温、疲労度、睡眠の質など)の確認を行いますが、現在は選手個人が自身のタブレットに入力することで簡易化しています。帯同ドクターは外傷や障害のある選手の状態を起床後、トレーニング前後、夜に必ず確認し、トレーナーと連携して治療にあたります。

女性アスリートに関する整形外科的な問題として、前十字靱帯損傷があります。フィジカルトレーナーとともに体幹強化、バランス訓練、下肢・体幹アライメント修正などを行い予防に努めています。また、最近では競技の高速化により筋挫傷の発生が増加傾向にあります。少しでも筋の違和感などを生じた場合には、チームスタッフと情報共有を行い、練習量の調整、指導や治療などを行います。必要であれば超音波検査やMRI 検査を行い、迅速に診断、治療や指導を開始することにより発症や悪化を未然に防ぐことも可能と考えます。その他、全身的な問題(栄養、メンタルヘルス)、婦人科的な問題(月経)は、専門家と連携をとりながら対応 しています。

メディカルサポートの課題としては、代表活動では、所属クラブとの練習内容や練習量、強度の違いなどから、骨格筋のトラブルを生じることが多いため、選手の細かな訴えを聞き、正確な診断や治療を行う必要があることです。外傷や障害発生時には、所属クラブと迅速な情報共有を行い、対応することが重要で、今後も迅速な連携を心がけていきたいと考えています。

シンポジウムに参加した感想としては、他の競技団体やパラスポーツなどの実情を聞くことができて、とても勉強になりました。女性が抱える問題は多岐にわたりますが、競技や専門分野にしばられることなく、多職種の方々と連携することにより、さらに女性アスリートのためになるような体制を築き上げていくことが重要だと感じました。このたびは、このような貴重な機会をいただきました学会長、ならびに座長の先生方に、この場をお借りして、深謝申し上げます。

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4)日本パラ陸上競技連盟での女性アスリートサポート

伊藤 倫之日本パラ陸上競技連盟医事委員会/愛知学院大学 健康科学部/京都府立医科大学大学院リハビリテーション医学

上出 杏里日本パラ陸上競技連盟医事委員会/国立成育医療研究センター

根本  玲日本パラ陸上競技連盟医事委員会/和歌山県立医科大学みらい医療推進センター/京都府立医科大学大学院リハビリテーション医学

東京2020パラリンピック大会における女性選手の割合は41.7%であり、変動はあるものの2000年のシドニー大会以降30~40%と世界と同じ割合で推移している。パラアスリートの1つの特徴として、健常アスリートより選手生命が長く、平均年齢も高いことが挙げられる。ロンドンオリンピック(オリ)・パラリンピック(パラ)の参加女性選手の平均年齢をみても、オリ選手が24.5歳であるのに対して、パラ選手は、33.3歳と約9歳パラ選手のほうが高い。東京パラでも平均年齢は32.3歳であった。2022年度の日本陸上競技連盟(以下、日本陸連)、日本パラ陸上競技連盟(以下、日本パラ陸連)の女子強化指定選手でも、日本陸連が平均年齢26.2歳であるのに対して、日本パラ陸連では30.7歳と高い。

また、ロンドンオリ・パラ女子選手における既婚率は、オリ選手の2.3%に対し、パラ選手は26.5%と高く、また、子どもがいる割合もパラ選手は12.9%とオリ選手の1.7%より高い結果である。つまりパラ女子選手は出産後も競技を継続するため、オリ出場選手とは異なるサポートも必要となる。また、パラアスリートは障害によって介助が必要なケースも多々あるため、女性サポーターが必要となってくる。女性コーチの割合は、リオオリは12.3%に対し、パラは20.0%と高い傾向にある。しかし、パラスポーツだけのデータではないもののスポーツ競技における女性役員の割合は日本全体で10.7%(2017年)と、欧米諸国が軒並み20%を超えているのに対して低い状況にある。

日本パラ陸連でも出産後の選手サポートについていろいろと対策をとっている。強化面においては、選手が強化指定を継続できるように配慮している。しかし、練習や競技会時の子どもに対するサポートはまだ不十分である。これらは、個人ではなく、もはや競技団体全体で考えていくべき問題である。ただ、日本パラ陸連は増田明美会長を筆頭に役員の37.5%が女性である。これは国際レベルに達しており、女性アスリートの声も届き、競技団体全体でサポートするには良い体制が整っているといえる。医療にかかわる医事委員会も女性アスリートが相談しやすい環境を整える必要がある。当委員会は41%が女性であり、トレーナー部も9人中4名が女性であることから、女性アスリートにとって最良の環境が整っていると考えられる。しかし、大会が少ないパラ陸上においては、各地で開催される大会や合宿に女性アスリートだけでなく女性スタッフも飛び回るため、子育てサポートなどの支援体制は重要であるが、まだ不十分である。

また、最近ではwebを利用した会議が増加している。自宅で会議に参加できるため、子育て中の役員でも子どもが近くにいても会議に参加できるというメリットがある。

女性パラアスリート、サポーターが競技や競技サポートを長期で継続できるように、競技団体全体で応援体制を構築する必要がある。そして、子育ては男性アスリート、スタッフにも関係することであり、女性という枠組みを超えた支援体制の構築が望まれる。

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5)女性アスリートと栄養女子中高生長距離選手へのアプローチ"現場の声に耳を澄ませる"

小川 貴美子京都田辺中央病院臨床栄養部/京都府立医科大学大学院医学研究科リハビリテーション医学研究生/管理栄養士公認スポーツ栄養士

シンポジウムに参加させていただいた講演後の感想は、壇上、フロアの何とも言えない一体感でした。初めてお会いした先生方もいらしたはずなのに「苦楽をともにする同志」のような、互いの気持ちが手を取るようにわかる、以前からお慕いしていたかのようにすぐに打ち解け合う感覚は、親友、家族といるかのようでした。そこには温かい雰囲気に包まれている自分がいました。

男女共同参画委員会の黒木洋美先生よりシンポジウム講演のお話を頂戴した当初、「女性アスリートと栄養」というテーマがあまりに広く大きいため、題材に迷ったことを記憶しております。しかしながら、テーマを女子中高生のLEA(low energy availability)に絞った瞬間、するすると流れる水のごとくスライドを仕上げられたことが印象的でした。当時コロナ禍での女子中高生アスリートを取り巻く状況は、栄養的観点からも、"認知度の低い"「公認スポーツ栄養士」という立場からも、声を大にして伝えるべきトピックスであったためです。後日談ですが、私が当時かかわらせていただいた高校生の駅伝チームは、男女とも、故障者なく無事駅伝大会に出場し、LEA予備軍と呼ばれる生徒たちは同伴してくださっていた産婦人科ドクターの指導、服薬治療のもと、現在も元気にアスリートとしてトレーニングに励んでいるとのことでした。また同駅伝チームについてシンポジウムで講演してよいか保護者会の会長に事前にお訊きしたところ、「私たちのような悩みを抱えた選手、保護者さんたちの情報が少しでもお医者さんの耳に届いたらうれしいです」と即座に快諾いただきました。また、「以前より女子中高生の栄養問題については興味がありましたが、わが子がこの問題に直面するとは思いも寄りませんでした。必ず産婦人科医の先生とスポーツ栄養士さんに講演に来てもらおうと、保護者会の会長に立候補したのです」と打ち明けてくださいました。こんなにも熱い思い、深い愛情をもって子どもたちに向き合おうとしている保護者がおられることに私は感動を覚えたと同時に、これからも小さな声に耳を澄ませ、そこに潜む問題を汲み取っていかなければならないと強く心に刻んだ次第です。

このような貴重な機会を与えてくださいました座長の三上靖夫先生、金内ゆみ子先生、男女共同参画委員会担当委員の先生方に深く感謝申し上げます。また、講演にご参加いただいた皆様、オンラインで聴講してくださいました皆様に深く感謝申し上げます。

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座長より

三上 靖夫京都府立医科大学大学院リハビリテーション医学

女性アスリートでは生理周期はコンディショニングや精神面に大きな影響を及ぼし、激しい運動は女性アスリートの三主徴とされるエネルギー不足、無月経、骨粗鬆症につながります。私が携わった女性柔道選手250名の調査では、20%の選手が3カ月以上の無月経など月経周期の異常がある、40%の選手が月経前症候群や月経困難症でパフォーマンスが低下すると回答しました。また、生理前の体重増が減量を難しくするなど、女性アスリートはコンディショニングにさまざまな悩みをもっています。女性アスリートに直接かかわっているシンポジストが登壇した本シンポジウムでは、それぞれの立場から実際と問題点、支援の取り組みついてご講演いただきました。生理周期の問題に対して、欧米では83%の選手が低用量ピルを服用しているのに比し、日本選手では27%に留まっているとの鈴木朱美先生のお話が印象的でした。わが国でもリハビリテーション関連職が協働して女性アスリート支援に取り組む必要があると感じました。

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