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ダイバーシティ&インクルージョン

第61回学術集会 男女共同参画委員会企画シンポジウム報告レポート

男女共同参画委員会企画シンポジウム
「ジェンダー平等の実現に向けて-10年以内に代議員・役員に女性会員が占める割合を30%に-」

第61回日本リハビリテーション医学会学術集会において開催された男女共同参画委員会企画シンポジウム「ジェンダー平等の実現に向けて─10年以内に代議員・役員に女性会員が占める割合を30%に─」の座長・シンポジストの先生方に、講演内容とシンポジウムのご感想をおまとめいただきましたので、本欄にて紹介いたします。

概要
  1. 日時:2024年6月13日(木)
  2. 会場:セルリアンタワー東急ホテル
  3. プログラム:
    はじめに
    津田 英一(弘前大学大学院医学研究科 リハビリテーション医学講座)
    1)日本リハビリテーション医学会における男女共同参画の現状と課題
      若林 秀隆(東京女子医科大学大学院 リハビリテーション科学講座)
    2)日本整形外科学会における男女共同参画の取り組み
      上里 涼子(沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 整形外科)
    3)スポーツ界における女性活躍推進の取り組み
      小笠原 悦子(順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科)
    座長より
    上出 杏里(国立成育医療研究センター)

はじめに

津田 英一弘前大学大学院医学研究科リハビリテーション医学講座

2015年に国連総会で採択された、「2030年までに達成するべき持続可能な開発目標(SDGs)」の17の目標の1 つに「ジェンダー平等の実現」があります。残念ながら本邦においては、男女平等への取り組みが不十分であることが、これまでも度々指摘されてきました。本シンポジウムの開催直前に発表された世界経済フォーラムによる「Global Gender Gap Report」2024年版によると、日本のジェンダー・ギャップ指数は146カ国中118位であり、主要先進国の中では最下位です。特に政治・経済の分野では意思決定に関わる女性の比率が極端に低く、順位を下げる大きな要因となっています。SDGsの達成に向け、取り組むべき喫緊の課題の1つであります。医学界においても、多くの学会が担当委員会を設置し、男女共同参画への取り組みを行っています。一方で具体的な数値目標を掲げ、それを達成したケースは少なく、未だ道半ばといった現状です。

本シンポジウムのタイトルは「ジェンダー平等の実現に向けて─10年以内に代議員・役員に女性会員が占める割合を30%に─」です。サブタイトルは本医学会が男女格差是正のために掲げた目標であり、「10年以内」と期限を設定し、「30%」の数値目標を示したところに本気度がうかがえます。3名のシンポジストには、それぞれの立場から男女共同参画に関するこれまでの活動をご紹介いただけるようお願いいたしました。若林秀隆先生と上里涼子先生からは、本医学会および日本整形外科学会の男女共同参画委員会委員として、それぞれの学会の活動と現状を示していただきました。小笠原悦子先生からは、スポーツ界におけるジェンダー平等に向けた国内外での活動経験についてお話しいただきました。後半の総合ディスカッションを経て、目標達成に向けて実行性を高めるための方策を本シンポジウムの提言としてまとめました。

【提言】
1) リハビリテーション科では学術集会ベースでの取り組みも続け、役員の女性比率アップへつなげていく。
2) 明確な数字を挙げてそれに対する達成率をHPで公表する。達成できない期間はなぜ達成できなかったか、今後どうしていくかの取り組みを発表する。
3) 目標を達成したら医学会でどのような変化が起きるのかイメージして取り組んでいく。

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1)日本リハビリテーション医学会における男女共同参画の現状と課題

若林 秀隆東京女子医科大学病院 リハビリテーション科

私は日本リハビリテーション医学会の男女共同参画委員会の一委員という立場で、本医学会での男女共同参画の現状と課題について話しました。本医学会では「今後10年を目途に代議員や理事の約30%を女性が占めるようにする」という目標を掲げています。

本医学会における会員の男女構成比をみますと、2023年7月時点での女性会員の割合は16.9%(男性9,516人、女性1,938人)でした。年代別の女性会員の割合は20代41.4%(男性82人、女性58人)、30代32.2%( 男性816人、 女性387人)、40代22.1%(男性1,934人、女性549人)、50代11.1%(男性2,871人、女性359人)、60代7.4%(男性2,366人、女性189人)、70代5.6%(男性726人、女性43人)、80代以上4.6%(男性230人、女性11人)と若い年代ほど高い割合でした。この中で専門医、指導医、代議員、理事の女性会員の割合は、それぞれ25.3%(男性2,098人、女性709人)、22.9%(男性1,096人、女性325人)、12.6%( 男性297人、 女性43人)、10%(男性18人、女性2人)でした。以上より、専門医、指導医と比較して、代議員、理事の女性会員の割合がより低い傾向にあることがわかりました。

2020年から2022年までに開催された年次学術集会および秋季学術集会を対象に、座長・演者に占める女性会員の割合を調査しました。その結果、年次学術集会では、指定演題(講演・シンポジウムなど)座長で8.6%(男性641人、女性60人)、同演者で10.7%(男性1,124人、女性135人)、一般演題座長で14.9%(男性479人、女性84人)、同演者で23.0%(男性3,050人、女性912人)でした。秋季学術集会では、指定演題座長で15.5%(男性283人、女性52人)、同演者で22.2%(男性442人、女性126人)、一般演題座長で14.8%(男性144人、女性25人)、同演者で25.4%(男性1,325人、女性450人)でした。指定演題や座長において女性会員の割合がより低い傾向にありました。

この現状を改善し女性会員の活躍の場を拡げるため、男女共同参画委員会では、各地方会に協力を依頼し、学術集会への貢献が期待される女性会員を指定演題座長・演者に推薦するシステムの構築を進めています。

また、全国医学部リハビリテーション科連絡会2023(令和5)年度名簿によると女性の教授・診療教授はわずか3名のみでした。一方、男性教授は78名、男性臨床教授などは9名でした。このことも指定演題、座長で女性会員の割合が低い一因と思われます。2023年から秋季学術集会では年次学術集会との差別化を図るため、若手会員への教育講演の依頼が積極的に行われており、指定演題の男女構成比改善にもつながるものと考えています。

また、理事・代議員・委員会の女性会員枠の設置(クオータ制など)が検討課題になると述べました。例えば、 日本プライマリ・ケア連合学会では、2024・2025年度役員選出選挙から、理事構成を男性25%以上、女性25%以上、医師以外職種10%以上とするクオータ制が導入されました。その結果、女性の理事立候補者が増えたことなどで、理事40名中11名(27.5%)が女性となり、クオータ制の発動は行われませんでした。

本医学会での男女共同参画の現状は十分ではありませんが、今回シンポジウムで発表して、女性会員の活躍を推進する複数の取り組みが開始され、成果が出つつある状況であることを理解できました。一方、基本19診療領域の医学会の中には、すでに理事の約30%を女性が占めている医学会もありますので、本医学会が先駆的とはいえない状況です。世界経済フォーラムのレポートによると、日本の2024年のジェンダー・ギャップ指数は、146カ国中118位でした。この状況を改善すべく、10年以内に代議員・役員に女性会員が占める割合が30%になることを期待しています。

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2)日本整形外科学会における男女共同参画の取り組みについて

上里 涼子沖縄県立南部医療センター・こども医療センター整形外科、日本整形外科学会 男女共同参画委員会

私は、日本整形外科学会(JOA)男女共同参画委員会の一委員として、今回、日本リハビリテーション医学会の男女共同参画委員会企画シンポジウム「ジェンダー平等の実現に向けて─10年以内に代議員・役員に女性会員が占める割合を30%に─」で発表する機会をいただきました。発表の内容は、JOA男女共同参画委員会の山内かづ代担当理事、新関祐美アドバイザー、大泉尚美委員長、長嶺里美委員の各先生方に情報をいただき作成したものです。

JOAは、日本内科学会、日本外科学会に次ぐ規模の大きい基本領域学会です。女性会員数は6.9%と女性会員の割合は診療科別で2番目に少なく、男性のイメージが強い診療科の1つとなっています。

JOA では、男女共同参画委員会の設立前の2007年頃より、男女共同参画・働き方改革に対する意識は高く、学術集会で男女共同参画・働き方改革に関連するシンポジウムを開催してきました。2017年に、女性医師支援等検討委員会が発足し、委員がJOA理事会へオブザーバーとして陪席し、理事会への働きかけを行ってきました。2018年には男女共同参画委員会と改名し、広報室ニュースに「JOYFUL通信」というリレーコラムの連載がスタートしました。2019年に働き方改革関連法が施行され、委員会の名称が男女共同参画・働き方改革委員会となり、女性のみならず男性会員も含めた労働環境の改善を課題として活動を拡大していきました。2021年にJOAに女性理事2名が初めて選出され、同年、委員会は、男女共同参画委員会と働き方改革委員会に分割され、それぞれの活動を充実させ継続しています。

2020年に当学会ホームページに委員会のページが開設され、現在、活動報告・情報発信として、委員会の活動報告、男女共同参画に取り組んでいる施設の紹介、キャリア支援として育休・産後パパ育休制度の紹介、トラベリングフェロー体験記、留学経験者インタビューを掲載しています。委員会のホームページは、医学生や研修医でもアクセスが可能となっており、若い世代への情報発信の場として機能しているものと思います。

2022年度からは、医学生や臨床研修医に整形外科に興味を持ってもらい、整形外科医を目指すきっかけとなることを目的に、「整形外科医になろうセミナー」を開催しています。このセミナーでは、整形外科の仕事や各領域で活躍する若手医師の活動を紹介しています。2025年2月には第5回を数え、より多くの医学生・研修医に視聴してもらえるようオンデマンド配信を行っております。

今回のシンポジウム当日は、男女共同参画に積極的に取り組んでいる日本リハビリテーション医学会の活動を拝聴することができました。JOAより早くに女性の割合が増加しているとのことで、JOAの数年後モデルとして参考にできることが多いかもしれません。アスリートの世界における女性活躍促進のお話を伺い、諸先輩方の苦労や努力のもとに、自分の現在があるのだと、改めて感じました。

JOA男女共同参画委員会では、男女問わずすべての会員が整形外科医としてのキャリアを築き活躍できる機会・場所を作ること、学生・研修医・若手医師に選ばれる魅力あふれる整形外科になることを最重要課題として、今後も活動を継続していきます。いつの日か、男女共同参画という言葉が不要になる時代が来ることを願っております。この場をお借りして、このような貴重な機会をいただきました学術集会会長、座長の先生方、ならびにJOA男女共同参画委員会の先生方へ感謝申し上げます。

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3)スポーツ界における女性活躍推進の取り組み: Initiatives to Promote Women in Sport

小笠原 悦子順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科

1994年に第1回世界女性スポーツ会議がイギリスのブライトンで開催され、その成果文書として「ブライトン宣言」が採択されました。この宣言は、スポーツ界における男女平等を推進するための10か条を掲げており、署名を行うことで、その精神に則り具体的な改革のための行動を起こすことが期待されてきました。

2014年の第6回世界女性スポーツ会議において、この宣言は「ブライトン+ヘルシンキ2014宣言」として改訂され、すべてのスポーツ組織の意思決定レベル(理事会など)において女性の比率を40%以上にすることが盛り込まれました。

また、国際オリンピック委員会(IOC)は同年(2014年)、IOC総会で「オリンピック・アジェンダ2020」を採択し、その40の目標の11番目に男女平等の推進を掲げました。具体的には、「1)IOCは国際競技連盟と協力し、オリンピック競技大会における女性の参加率50%を実現し、参加機会を拡大することにより、スポーツへの女性の参加と関与を奨励する。2)IOC は男女混合の団体種目の採用を奨励する。」とされています。

こうした動きを受け、世界中で男女平等推進の機運が高まり、2018年にはIOCの「ジェンダー平等再検討プロジェクト」による"IOC Gender Equality Report" が発表されました。

一方、日本の現状は、東京2020大会組織委員会は2013年の設立当初、男性役員のみで構成されており、世界的な潮流を十分には認識していませんでした。そこで、2017年にスポーツ庁が主導し、自らを含む日本オリンピック委員会(JOC)、日本体育協会(現:日本スポーツ協会)、日本障がい者スポーツ協会(現:日本パラスポーツ協会)、日本スポーツ振興センター(JSC)の5団体が「ブライトン+ヘルシンキ2014宣言」に署名し、女性とスポーツの振興に努めることを誓ったのです。

2019年、スポーツ庁はスポーツにおける不祥事の発生を防ぎ、また、スポーツの価値を一層高めるため、スポーツの普及・振興の担い手となるスポーツ団体の適正なガバナンスを確保することを目的とし、「スポーツ団体ガバナンスコード」を発表しました。この中には、女性理事を40%、外部理事を25%とすることが盛り込まれており、さらに遵守違反の場合補助金減額の対象とする規定も含まれるため、強制力のある内容となっています。

スポーツ界における女性の活躍推進は、IOCや日本政府(スポーツ庁)などの積極的な関与によって、大きな発展を遂げつつあります。

本講演では、女性のスポーツ参加を促進するために、特に参考となる海外事例として、イギリスの「This Girl Can」キャンペーンを紹介しました。

このキャンペーンの成功の要因は、女性がスポーツをしない理由を入念に調査し、最も核心に触れる部分を突いたキャンペーンを展開した点にあります。調査の結果、女性がスポーツを行わない主な理由は外見、能力、優先順位という3 つの観点に集約されました。

多くの女性は、これらの3つの観点において他人からの評価(判断)を恐れ、不安を抱いていました。そこで、「This Girl Can」では、この3 つの観点の恐れを払拭することを目的としたキャンペーンを展開。そのコマーシャルは大ヒットし、世界中の人々がSNS で拡散したことで共感を呼び起こし、イギリスではスポーツを始める女性の数が増加するという成果をもたらしました。

最後に、2024年に公開された「Girls in Sport」という女性スポーツ研究センターのWeb ページを紹介しました。これは「中高部活女子の健康課題を解決するための特設ページ」であり、中高部活女子が陥りやすい体調不良の原因や対処法に関する最新情報、さらに様々なツールを提供しています。

スポーツ界では、便利なツールや影響力のあるキャンペーンが次々と生まれ、グラスルーツからトップレベルまで、女性が輝き活躍できる環境が整いつつあることを紹介しました。

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座長より

上出 杏里国立成育医療研究センター

本シンポジウム直前の日には、世界経済フォーラムによる「Global Gender Gap Report」2024年版がちょうど発表されました。日本のジェンダー・ギャップ指数は0.663と146カ国中、前年125位から118位へとわずかに上昇していたものの、主要先進国の中で最低順位であることに変わりはありませんでした。国内では歩みの遅い男女格差の問題ですが、日本リハビリテーション医学会においても、これまで課題となりながら社会の要請目標には到達していません。

本シンポジウムでは、改めて「10年以内に代議員・役員に女性会員が占める割合を30%に」というゴール・アンド・タイムテーブル方式による具体的目標数値を掲げ、日本リハビリテーション医学会と他学会の現状と取り組みについてお話を伺うことができました。また、男女平等推進にむけて先を進むスポーツ界の取り組みをお話された小笠原悦子先生の講演は印象的でした。世界女性スポーツ会議においてスポーツのあらゆる分野での女性の参加を求めた「ブライトン宣言」(1994年)を皮切りにスポーツ界がどのように変化していったのか、女性理事40%を含むスポーツ団体ガバナンスコードなどの組織的改革や格差解消による成果から学ぶことが多くありました。

医学部医学科の入学者の女性の割合が4割を超えるようになった今、若い世代における女性会員の割合は増える傾向にあります。一方、専門医を占める女性の割合と比較して代議員、役員を占める女性の割合が低いことから、意思決定の現場に女性が参画することの重要性について多くの医学会員が関心をもつ必要があります。本医学会では、教育講演や指定演題、座長に女性医師を含む若手医師の登用が積極的に進められましたが、このような取り組みの継続によって将来的な女性医師の活躍推進につながることを願っています。また、提言に挙げた通り、本シンポジウムの目標値に対する経過報告と振り返りについて、年次ごとに医学会員へ共有されることが最も重要でしょう。近い将来、本医学会を含む社会全体で男女共同参画が当たり前になっていくことを期待しております。

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