<2006/December/01 updated>
専門医会のコラム専門医会総会《基調講演》2006年6月2日

専門医制度の変遷と今後の展望(2):
医学的リハビリテーションの特殊性

東北大学名誉教授 中村 隆一


学会認定医制協議会の設立及び厚生省の動き

この間の各医学会、日本医師会と日本医学会、厚生省の動きを紹介します。1981年11月、認定医(専門医)制度に関連した22学会によって学会認定医制協議会が発足し、「国民が進歩している医学・医療の恩恵を享受できるように、各領域の医療を担当する信頼される医師の育成を目指す専門医制度の社会的容認と健全な発展のための活動を行う」ことが申し合わされます。ここでいう「臨床的に幅広い領域」が何を指しているのか、あまりはっきりと示されてはいません。

1987年8月、日本医学会・日本医師会・学会認定医制協議会による三者懇談会が開催され、専門医(認定医)の公認が論じられますが、「わが国では個々の専門医制度の形態は多様で統一性がなく社会の人々の理解が困難であり、医療に取り込む論議の段階ではない」とされました。1988年2月、厚生省・日本医師会・日本歯科医師会から「診療科名等の表示に関する検討会」の報告書が発表され、そこに第I診療科群・第II診療科群・第III診療科群の区分が記されました。

1993年11月、第15回三者懇談会で、「認定医の公認に関する三者懇談会の見解」が協議され、各学会の認定医の承認に関する基本的合意事項が成立します。内科学会や外科学会などの基本的領域診療科13領域として、日本医師会長・日本医学会長・学会認定医制協議会議長との三者による承認を1994年4月から実施しました。ただし、その表示は病院や診療所の内部に掲示、名刺等に記す範囲でした。なお、現在では三者承認は廃止されています。

1996年の国民医療総合政策会議中間報告「21世紀初頭における医療提供態勢について」と1997年の厚生省・政府与党の「21世紀の医療の改革の提案」において、国民への適切な医療情報の提供として「かかりつけ医の専門分野の表示が必要で、実施されている学会の専門医が社会に理解されるよう認定基準の統一化、明確化を図るべきである」との趣旨が記されます。そのような経緯を経て、2002年3月に医業(歯科医業)または病院(診療所)に関して広告できる事項、厚生労働大臣告示「専門医の資格について」が出され、4月には専門医の「広告は医師の専門分野の情報提供であり、臨床知識や技能の習得レベルを表示するものではない」と記した公示も出されています。また、12月には認定医制協議会が有限責任中間法人日本専門医認定制機構となりました。

残された問題

専門医の広告に関する基準には、I・II・III群の区分はありません。専門医認定制機構の現在の対応は、「第I群(基本領域専門医)は医師の臨床基盤形成において、その基盤となる領域を担当する14の学会群による会議組織。それに、救急医学・リハ・形成外科を追加。第II群(サブスペシャルティ)基礎とする領域の認定(研修)に上積み研修方式の制度の学会。第III群(1及びII群以外の学会)複数の領域と関係があるもの、横断的に多くの領域に関係するもの、特定の狭い専門領域の制度・特定の診療方法(技能)の習得を目指したもの、一般の患者が直接受診しない領域のものなど、関連学会間で協議が必要とされるもの」です。専門医認定制機構のホームページには、日本リハ医学会を含めて、基礎領域18学会の研修(修練)施設が公開されています。これらの区分は専門医認定医制機構における取り決めであり、各学会の総意によって、また社会的要請の変化によっても、容易に変更できると思います。

いろいろな制度との関連で残っている問題の1つに「診療報酬と領域」との関係があります。本年4月、診療報酬の改定において、リハ料に疾患別リハの枠組みが導入されました。それらにかかわる診療施設と担当医師との問題です。担当医が専門医である必要はありません。また、厚生労働省の通達に従って行われる施設認定の基準は建物と人員です。専門医にできることは、専門医であることを広告することだけです。現状では、リハ科専門医が疾患別リハの全領域に主導権を得ているわけではありません。時代の趨勢からみると、リハ科専門医は基礎領域(I群)に属していますが、診療報酬との関連からは、専門医のうちから疾患別リハに対応するサブスペシャリティの出現が望まれる時代になったように思えます。たとえば、心臓大血管系リハは、循環器内科あるいは心臓血管外科学会に属してリハ医療を専門とする医師と、リハ科に属して心臓大血管系リハに特化した医師との、どちらが指導権を得るのかの問題です。現在、第II群のサブスペシャリティに属している26学会のうち、13学会、すなわち半数は内科学会の認定内科医(これは学会内部の制度です)となってから、第II群に属する学会(サブスペシャリティ)の専門医になります。2005年10月、リハ医学会は会員9,553名(専門医1,102名)です。一方、循環器学会は会員22,454名(専門医9,313名)です。私たちは新たな課題を投げかけられています。リハ科専門医・認定医制度を発足した時の専門医(specialist)と認定医(expert)の必要性が再現したように思えます。リハ医学会は、複数領域に横断的に関連する学会として第III領域にとどまるべきであったのでしょうか。むしろ、広大な医学的リハという分野を考えれば、専門医と臓器別のサブスペシャリティとしての認定医との必要性を再考するべきかもしれません。

診療報酬に関する《通則》には、「リハ医療は、基本的動作能力の回復等を目的とする理学療法や、応用的動作能力、社会的適応能力の回復等を目的とした作業療法、言語聴覚能力の回復等を目的とした言語聴覚療法等の治療法により構成され、いずれも実用的な日常生活における諸活動の実現を目的として行われるものである」と記されています。健康保険法におけるリハ医療が担当する領域は、医学的リハが掲げている領域よりも、かなり狭いのです。医学的リハは医療保険制度だけではなく、身体障害者福祉法第15条(身体障害者手帳)や第19条(自立支援医療)とも関連しています。ここには制度的なバリァが残存しています。さらに介護保険制度との関係も大きいのです。リハ医の課題のひとつに、障害者(高齢者を含む)の健康管理、二次的障害の予防と健康増進があります。私たちの提供できるヘルスケア・サービスは何か、社会がその価値を理解するか否かは、この領域を支えているリハ医学の理論と技術の発展にかかっています。同時に医学的リハについての国民の理解を深める努力が必要とされています。

リハ医学は、機能志向的アプローチを掲げて、病理志向的アプローチの医学とは異なる立場を主張しています。それが世界保健機関が掲げたICIDHあるいは現在のICFのような保健衛生統計のための分類表をなぞるものであっては、科学技術を支えるモデルとなりません。リハ科専門医にとっては、他領域の専門医と共通基盤に立って意見交換あるいは討論を闘わせることができるように、医学モデル(病理志向的アプローチ)に立脚した視点も熟知しておくべきでしょう。その上で、活動や参加も変数として取り込んだモデルを構築して、EBMを確立することが私たちの課題であると思います。

(第1回はリハニュース30号に掲載しました)