リハビリテーション関連雑誌における評価法使用動向調査-6-
(リハ医学43-9:2006年9月)
日本リハビリテーション医学会 評価・用語委員会 担当理事 住田 幹男
委 員 長 朝貝 芳美
委員 森田 定雄(担当),浅見 豊子,小竹 伴照
高橋 秀寿,美津島 隆
はじめに
日本リハビリテーション医学会評価・用語委員会では1998年以来,リハビリテーション(以下,リハ)関連雑誌の原著論文に使用されている評価法を調査し,その結果をリハ医学会のホームページに掲載し,様々な検索や,全データのダウンロードが可能となっている.さらに各年度の評価法使用傾向に関して,本誌に1999年以来,数回「リハビリテーション関連雑誌における評価法使用動向調査」1~5)として報告してきた.昨年度(2005年)の1年間のデータの集計が終了したので,その分析結果を中心に,ここ数年の評価法の使用動向を報告する.
対象と方法
調査方法は2005年発行のArch Phys Med Rehabil, Am J Phys Med Rehabil, J Rehabil Med, Disabil Rehabil, リハ医学,総合リハ,臨床リハを対象に原著論文の中で用いられている評価法を抽出した.これらの論文から抽出する評価法の基準は昨年の報告5)を参照されたい.また,2004年の評価法抽出作業より脳卒中合同ガイドライン委員会の脳卒中のevidence levelに関する分類6)を基準にして,各評価法が使用されていた論文のエビデンスレベルを評価した.
結果
2005年のリハ関連雑誌に使用されていた評価法の延べ数は810件であった.これらの中で3篇以上の論文に使用されていた評価法を表1に示す.Functional independence measure : FIM,Barthel index : BI,Mini-mental state examination : MMSE,Medical outcomes study short form-36 health survey : SF-36,American Spinal Injury Association impairment scale : ASIA impairment scale,Ashworth scale-modified : MASなど,高頻度に使用されている評価法に例年と比較して大きな変化はない.
エビデンスレベルの高い論文に使用されている評価法を示すため,レベルIa,b,IIa,bと評価された論文に使用されていた頻度の高い評価法を表2(PDF)に示す.エビデンスレベルの高い論文には,やはりFIMの使用頻度が非常に高い.
次に疾患群別に各評価法の使用頻度を示す(表3~9).脳血管障害・その他の脳疾患ではその論文数が多いため,全体の集計の傾向をほぼ反映し,FIMの使用頻度が高いが,疼痛の評価のVASやSF-36の使用頻度が少ない傾向があった.
脊髄損傷・その他の脊髄疾患(表4)ではASIA impairment scaleが圧倒的に多く使用され,FIMは少なく,SF-36が比較的高頻度に使用されていた.関節リウマチ・その他の骨関節疾患(表5)ではVASが多く,FIMとSF-36がほぼ同じ頻度で使用されていた.その他の疾患群の結果は表6から表9(PDF)に示す.
次に今まで蓄積した1998~2000年,2003~2005年の6年分のデータ全体の傾向を表10に示す.やはりFIMが多く使用され,BIの約3倍使われていた.さらに経年的な変化を図1に示す.FIMが最近3年間の論文に非常に多く使われる傾向がみられた.
考察
1998年の調査開始以来,リハ領域を扱う論文で使用されている評価法は,全体的に大きな変化はない.従って,リハ領域の臨床,研究に使用されている評価法は表1に示したものが代表的といえるであろう.各疾患群別に高頻度に使用されている評価法は,その領域で一般に広く使用されているもので,今後も臨床,研究に使用すべきものと推奨される.しかし,ある特定の問題を明らかにするためには,その目的に特化した評価法というものもあり,小さな変化をより鮮明に捉えるようにデザインされた評価法がある.そのような評価法は,その領域の論文が多く発表されないと,使用頻度が高くならない.従って,使用頻度が低いからといって,単純に使用が薦められないというものではない.
また,昨年より本委員会でも論文の評価に取り入れるようになったエビデンスレベルに関しては,研究のデザインがより客観的で,計画的に行われたものが高いレベルのエビデンスを示す論文であると評価される.エビデンスレベルが高いことが必ずしもその論文に使用されている評価法の信頼性の高さを示すわけではないことに注意する必要があるが,エビデンスレベルの高い論文にしばしば使用されている評価法は,やはり信頼性が高いとして広く受け入れられている評価法と考えることができるであろう.
リハの各領域の障害に対する評価法は数多くある.それぞれ,特徴があり,長年使用されているものが多い.当委員会ではリハ領域で推奨される評価法の検討を続けているが,ある領域の問題に関してはこの評価法を使用すべきであると根拠をもって主張することは非常に難しい面がある.今後もリハ領域での使用が推奨される評価法の検討を続けていくが,当面は現在行っているリハ関連雑誌での評価法の使用動向調査を継続し,各評価法の使用頻度からリハ領域で一般的に使用されている評価法を示し,リハ医療に携わる医療スタッフの参考にしていただく方針である.
文献
住田幹男, 園田 茂, 大橋正洋, 小林一成, 近藤和泉, 首藤 貴, 千田富義, 豊倉 穣, 正門由久, 大川弥生, 眞野行生 : リハビリテーション関連雑誌における評価法使用動向調査. リハビリテーション医学1999 ; 36 : 553-555
園田 茂, 住田幹男, 大橋正洋, 小林一成, 近藤和泉, 千田富義, 豊倉 穣, 眞野行生, 蜂須賀研二 : リハビリテーション関連雑誌における評価法使用動向調査―2―. リハビリテーション医学2001 ; 38 : 87-90
園田 茂, 大橋正洋, 小林一成, 近藤和泉, 豊倉 穣, 森本茂, 千田富義, 住田幹男, 眞野行生, 蜂須賀研二 : リハビリテーション関連雑誌における評価法使用動向調査―3―. リハビリテーション医学2001 ; 38 : 796-798
小竹伴照, 朝貝芳美, 豊倉 穣, 住田幹男, 田中信行, 浅見豊子, 高橋秀寿, 塚本芳久, 森田定雄, 森本 茂 : リハビリテーション関連雑誌における評価法使用動向調査―4―. リハビリテーション医学2004 ; 41 : 727-732
住田幹男, 朝貝芳美, 小竹伴照, 浅見豊子, 高橋秀寿, 塚本芳久, 美津島隆, 森田定雄 : リハビリテーション関連雑誌における評価法使用動向調査―5―. リハビリテーション医学2005 ; 42 : 603-608
里宇明元 : 脳卒中リハビリテーション・ガイドライン―策定経過と概要―. リハビリテーション医学2004 ; 41 : 86-89